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#1152/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 93/ 9/23 22:29 (191) 小説>らんま「料理の話」 SAMWYN ★内容 【 料理の話 】 小説 ”らんま1/2” ID:QKM33822 SAMWYN プロローグ 「シャンプー!!」 猫飯店の戸を勢い良く開けてあかねがズカズカ乗り込んで来た。ん? と振り向い たシャンプーはキッとにらみつけた。 「・・・何の用か、あかね?」 「シャンプー!」 間近まで顔を寄せてキッとにらみ返すあかねはいきなりバッとおじぎした。 「お願いっ、料理教えてっ!!」 「・・・は?」 シャンプーは唖然とあかねを見下ろした。 1.あかね料理を作る 「乱馬がね、最近かすみおねーちゃんと妙に親しくなっちゃって、いろいろ料理教 わってるのよ!」 テーブルについたあかねは悔しげに言った。ハスに座ったシャンプーはそんなあか ねをいぶかしげにジロジロ眺めた。 「で、何でわざわざ私のとこ来たか? そのかすみに教われば良いことあるね?」 「乱馬はね・・・」 あかねは何とも悔しそうにハンカチを噛んで、涙目でシャンプーをキッとにらみつ けた。 「あたしより料理がうまいのよおおお〜っ!!」 「・・・で、何でわざわざ私のとこ来たか?」 悔しさのあまりヒクヒク泣き出したあかねにウンザリしたように首を振りながら今 1度シャンプーは聞いた。 「まだわかんないのっ!? 乱馬と同じ料理であたしが勝てるわけないじゃない! だから、かすみおねーちゃんのあまり得意じゃない中華ならって・・・」 グッと握った拳に闘気を込めてあかねはシャンプーをギッとにらみつけた。 「人がこーやってわざわざ頭下げて頼んでるのよっ! もちろん教えてくれるわよ ねっ!?」 「教えるはいいが、お前教えた通りできるのか?」 シャンプーは意外にアッサリとO.K.した。ホッとしたあかねはようやくエヘヘ と笑って打ち消すように手を振った。 「もっ、もちろんよ! あたしあんたほどマヌケじゃないんだから、言ってくれれ ばちゃんと作れるわよ!」 「・・・お前、最近だんだん乱馬に似て来たある。気をつけるよろし」 では、と立ち上がったシャンプーは調理場に入る前に、ついて来るあかねに振り向 いてボソッと言った。 「中華料理の基本は下ごしらえと正確な時間ある。ではまず肉を切るよろし」 短い棒のようなムチを持つシャンプーの指導の元、かっぽう着姿のあかねの闘いが 始まった。あかねは目の前にデンと置かれた肉をキッとにらみつけた。 (肉を切ることはすべての料理に通じる基本! この難問をクリアしなければ絶対 乱馬には勝てないわ!) 「でえええ〜いっ!!」 包丁をズバッと肉に切り下ろしたあかねはそのままベッタンベッタン包丁にひっつ いた肉で餅つきを始めてしまった。 「きっ、切れない・・・!? そんなっ、どーして・・・ああっ!」 ついに肉はスポッと抜けてどっかに飛んで行った。クッと悔しげにまないたにパン チを食らわしたあかねはバッとシャンプーに振り向いた。 「こっ、この肉がおかしーのよっ!」 「・・・おかしいのはお前ある、あかね」 頭の上に肉をベッタリ乗せながらシャンプーが頬をひくつかせていた。 「良いか、あかね? すべてのものには急所と『流れ』があるね。お前はそれを考 えないから切れないある」 包丁をクルクル回して見せながらシャンプーはあかねに言った。 「急所を突けば水を刺すように軽やか、そのまま『流れ』に乗せて包丁を動かせば 肉は自然に別れるある。お前は切ることしか考えてないね、包丁は切る物ではなく 描く物ある」 包丁をクルクル回しながらシャンプーは一筆描きのように素早く肉の上をなぞって 見せた。まないたにトンと柄をつけて包丁の回転を止めると、肉はまるでフワッと 花開くように美しく切れ別れていった。 「う・・・。す、すっご〜い!!」 あかねは相手がシャンプーであることも忘れて感動したように思わず叫んでしまっ た。フッと笑ったシャンプーは包丁をトンとまないたに突き刺した。 「お前には下ごしらえはムリね、あかね。中華ではあり合わせの物から優れた料理 を作ることも大切ある。スーパーの整形済み肉と中華の元を使ってもおいしい料理 が作れるならそれで良いね、何も恥じることはないあるよ?」 ポンポン肩を叩くシャンプーをあかねはうっ、と言葉に詰まってにらむばかりだっ た。 「わ・・・、わかったわよ。い、今はそれでいーわ」 「そこで塩を入れるね! それは砂糖ある! 何度言えばわかるか!」 結局今回は下ごしらえはすべてシャンプーがやり、いよいよ実際の調理に移った。 シャンプーはムチであかねの手をビシビシ叩きながら的確な指示を与え、あかねは その度にギロッとシャンプーをにらみながらどうにかそれをこなすのだった。 「入れ過ぎある! お前本気で料理作る気あるのか、あかね!」 「ちょっとの失敗ぐらい大目に見てよねっ!? かすみおねーちゃんならそんなガ ミガミ言わないんだからっ!」 あかねはもう前後左右もわからない慌ただしさであれを入れこれをかき混ぜしなが ら振り向くヒマもなく怒鳴った。 「お前の『ちょっとの失敗』はすべて『致命的失敗』あるね! ワザとやってると しか思えないある!」 シャンプーはお酢のビンを取ろうとしたあかねの手にビシッとムチを入れながら怒 鳴った。 「で、できたわね、とにかく・・・」 テーブルにつく2人の前には何やらわからないものがグチャッと乗った皿が置かれ ていた。 「・・・盛り付けはともかく、最低限の味はあるはずね。かすみの指導ならまず間 違いなくゴキブリさえもよけて通ったものになったところあるよ」 「・・・ど、どーもね、シャンプー。最後まで付き合ってくれて感謝してます」 今はあかねはすまなそうに両手を合わせてシャンプーを拝んだ。キョトンとあかね を見つめたシャンプーは少し赤くなった頬を隠すようにプイッと横を向いた。 「誤解するでない。あくまで乱馬のためね、お前の料理食べさせられて腹こわして 死んだら一大事ある!」 「・・・ん、わかってる、そーならないよーに頑張ってるのよ、あたし」 あかねは優しく微笑んでうつむいた。そんなあかねをチラッと見たシャンプーはコ ホンと咳をして箸を取った。 「・・・では、さっそく食べてみるある」 「何かドキドキしちゃう、あたし!」 あかねも箸を取って料理をジッと見つめた。少なくとも香りはおいしそうだった。 「では、いっただっきま〜す!」 「・・・」 一口パクッと口に入れた2人はそのまま、深刻な顔でモグモグ口を動かしていた。 やがてシャンプーがボソッと言った。 「・・・まだレトルトパックがあるね、気を落とすでない、あかね」 「エ・・・ヘヘ、でも、今まであたしが作ったのよりはおいしーや・・・」 作り笑いし合った2人はそのままハ〜ッとため息をついてうつむいたのだった。 2.乱馬料理を作る 「ただいま〜・・・ん?」 縁側のフスマをガラッと開けたあかねはいつになく豪華な食卓に気づいた。 「あら、お帰り、あかね。今日の夕飯は全部乱馬くんが作ってくれたのよ」 味噌汁の鍋を運ぶかすみに続いて炊飯器を抱えたらんまが入って来た。 「よー、お帰り、あかね! おれ、かすみねーちゃんの味全部覚えたからもー安心 だぜ!」 「え・・・? な、何よ、安心って・・・?」 ピンとウインクするらんまにあかねはわけが分からず聞き返すばかりだった。なび きがジトッとあかねをにらんで言った。 「ほら、旅行のことよ!」 「・・・あ!」 あかねは1ヶ月ほど前に乱馬やなびきと相談したことをようやく思い出した。かす みに今までの感謝を込めて、早雲と2人で旅行してもらおう、とあかねが提案した のだったが、その時は結局料理をどうするか、と言う問題でその話はお流れになっ たのだった。 「ちょ、ちょっと待ってて!」 あかねはあわてて駆け出した。 「良かった! まだ期限は大丈夫ね!」 偶然手に入れた旅行券を捜し出したあかねはそれをポケットに入れて急いで部屋を 飛び出した。 「まあ! 本当に!? ・・・あ、でも、嬉しいけど・・・」 夕飯の後、なびきのパンパカパ〜ンであかねから旅行券を渡されたかすみはパアッ と顔を輝かせたが、すぐに心配そうにそれを見つめた。らんまがかすみの背中をパ ンパン叩いて笑った。 「だ・い・じょ・お・ぶ! 料理はおれ、あかねは洗濯、なびきと親父は掃除をや るってもう決まってんだ! だからかすみねーちゃん、な〜んにも心配しねーで、 ゆ〜っくり骨休めして来てくれよ、な!」 『聞いとらんぞ、わしは?』 コソッとらんまに見せる看板をバッと取り上げてらんまはパンダの頬をムニュッと 引っ張った。 「もちろん賛成だよな、な! お・や・じ!」 「いやあ、すまないねえ、みんな!」 アハハと笑った早雲はニコニコ顔でかすみに微笑んだ。 「せっかくみんなが用意してくれたんだし、行ってあげよーじゃないか、ねえ、か すみ? お前がお嫁に行った時の予行演習とでも思って、ね?」 「そ・・・、そ〜ね〜・・・」 嬉しいながらもまだ少し心配そうにしたかすみは、みんなの固唾を飲んで見守る視 線に気づくと、あわてて恥ずかしそうに微笑んで手を振った。 「わ、わかったわかった、行きますってば! も〜、みんなしてあたしを追い出し たいんだからぁ」 「や・っ・た〜っ!!」 たちまちらんまたちはパアッと顔を輝かせてバンザイさえしてしまった。なびきが すかさずコソッとかすみに言った。 「んじゃおねーちゃん、あたしのおみやげ、テレホンカードお願いね!」 「まあ、おみやげが目当てなのね、ほんとに、ほんとに・・・」 かすみは嬉し涙をソッと拭いながらなびきの頭をメッと叩いた。 「仕方ない人たちなんだから!」 エピローグ 「おねーちゃん・・・」 少しもらい泣きしそうになって静かに微笑んで座っていたあかねにらんまがツッと すり寄った。 「良かったな、あかね? かすみねーちゃん、すげー嬉しそうじゃん?」 「・・・あんたのおかげね。感謝するわ、乱馬!」 あわてて目元を拭ったあかねはエヘヘとすまなそうに笑って見せた。らんまはん、 と微笑んでまたかすみたちへと顔を戻した。 「・・・ま、これで将来の不安も1つ消えたしな、おれとしても一石二鳥ってとこ で何か嬉しいや、へっ」 「・・・え?」 キョトンと見つめるあかねにらんまは振り向きざまに拳をあかねのあごにコツンと 当てて見せた。 「ま、1週間おれの料理たっぷり味わってくれよ、な? マズいなんて言ったら承 知しねーぞ?」 「・・・フン!」 あかねはついニヤケそうになる顔を隠すようにプイッと横を向いた。 「見てなさいっ、そのうち絶対あんた何かよりうまくなって見せるからっ!」 「おーおー、受けて立つぜ、その勝負! いつでもかかって来やがれってんだ!」 らんまはおどけるように肩をすくめて首を振って見せた。 「・・・うん、そーする!」 あかねは今はクスッと微笑んでうなずいたのだった。庭の外の秋の虫は今夜はなぜ か優しく満ち足りた様子で天道家の賑やかな騒ぎに合わせて鳴いていた。 【 料理の話 】終わる