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#1181/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 93/10/14 20:38 (194) 小説>らんま「見果てぬ夢を」2 SAMWYN ★内容 3.人生は夢の織物 「どーだ、告白できそーか、良牙?」 喫茶店を出しなにらんまはコソッと良牙に聞いた。良牙は先に店を出たあかねの背 中を真剣な表情で見つめながら力強くうなずいた。 「ああ、勝負かけるぜ! 邪魔すんじゃねえぞ、乱馬!」 「わかってるって」 少し無理を感じながらもニコッと笑って見せたらんまはあかねに呼びかけた。 「あかねェ、公園寄ってかねーかァ! 良牙がさァ、ヤキイモおごってくれるって よ!」 「え〜、悪いわよ〜! ・・・いーのぉ、良牙くん?」 すまなそうに笑いながら振り向いたあかねはしかし少し期待混じりで良牙に甘えた のだった。 「ここ座ろーぜ! ほら、きれーな夕焼けが良く見えるぜ、こっから!」 あまり人気のないあたりまで来たらんまはそばに手頃なベンチを見つけてわざと端 の方にドカッと座った。 「ほら、良牙は真ん中だぜ! 何つってもおめーのおごりだかんな、今日はおめー が主役だぜ!」 「わあ〜、ほんとにきれーな夕焼けね〜!」 もちろん良牙がそれを嫌がるはずはなく、続いてらんまの反対側の端に座ったあか ねが赤く色付く雲をウットリと眺めながら思わず賛嘆の声を上げた。 「おあつらえ向きの場所だろ? んじゃ、ほれ!」 コソッと良牙の耳にささやいたらんまはバッと手を差し出した。 「おれが買って来てやるぜ!」 良牙から金をもらったらんまは去り際にコソッと良牙の耳に言い残して走り去って 行った。 「告白タイムだ、頑張れよ、良牙!」 「・・・ほんっとにきれい。何か、映画のラストシーンみたいね、良牙くん?」 あかねはンフッと良牙に笑って見せた。そんなあかねを切なげにジッと見つめなが ら良牙は思わずつぶやいた。 「・・・あかねさんにはかなわねえぜ」 「・・・え? ヤ、ヤだっ、良牙くんったらぁ! うん、でも、お世辞でも嬉しい ナ! あいつもそれぐらい言ってくれればいーのに、ねえ?」 恥ずかしそうに笑ったあかねは遠くを見る目でフッと夕焼けへ顔を戻した。クッと 拳を握った良牙はそれをジッと見つめながらうめくように言った。 「・・・俺じゃ・・・ダメか、あかねさん? ・・・あいつなんかじゃなくて!」 「・・・え?」 あかねはギクッと良牙に振り向いた。良牙は決意に満ちた厳しいまなざしでジッと あかねの目を見つめた。 「・・・あかねさん! 俺は、あかねさんが・・・、あかねさんのことを・・・」 「・・・言っちゃダメッ、良牙くん!」 背中にゾクッと感じたあかねはあわててバッと耳を塞ぎながら良牙に背を向けた。 それが何であれ、聞いてしまえばその瞬間に幸福な今がたちどころに砕け散ってし まう気がしてならなかった。 「聞いてくれっ、あかねさんっ!」 良牙は強引にあかねの手を取って振り向かせた。 「・・・!」 ヤキイモの袋を胸に抱えてテテテと戻って来たらんまは遠くから2人の様子に気づ いてあわててそばの茂みに隠れた。 (・・・良牙) 不意にあかねがらんまを捜すように怯えた顔でまわりを見回した。それを見た瞬間 突然らんまの胸がズキンと痛んだ。らんまは思わず駆け出しながら大声で叫んだ。 「ダメだっ、良牙っ! 言うなっ、おめーが傷つくだけだぞっ!!」 しかしベンチまでははるかに遠く、らんまの声は2人のもとへは届かなかった。 「ゴメンなさいっ、良牙くん!」 ついにたまりかねてあかねは強引に良牙の手を振りほどいて立ち上がった。 「・・・お願いだから、それ以上言わないでよ、良牙くん・・・」 夕焼けの中、背を向けながらあかねはつぶやいた。良牙は愕然とそれを見つめるば かりだった。 「あ、あかねさん・・・!」 「・・・あたし、良牙くん傷つけたくないの。だって良牙くん、とてもいい人だか ら・・・」 振り向いて少しつらそうに微笑んだあかねはかつてないほど美しかった。そしてそ れは良牙にはそれだけになおさら切ない記憶となった。 「・・・ゴメンねっ、良牙くん!」 あかねは最後に心からすまなそうにペコッとおじぎして、それから逃げるように走 り去って行った。 「・・・くっ!」 ベンチにガックリと座り込んだ良牙は頭を抱え込んでそのままうずくまった。 「・・・良牙」 おそるおそる近づいたらんまは震える良牙の肩を少し切なげに見つめた。ピクッと した良牙はあわてて目をゴシゴシこするとデンとベンチにふんぞり返った。 「わははははっ、すまねえなあ、乱馬! せっかくお前がわざわざお膳立てしてく れたのになあっ!? あはっ、あはははははっ!!」 「良牙・・・」 らんまもいっしょに笑ってやりたかったが、どうしてもそんな気分になれずに黙っ て良牙のとなりに腰を下ろした。フッと笑った良牙はのけぞるように空を見上げな がらつぶやいた。 「・・・遠いなぁ。・・・まるであの雲みてえだ」 ピクッと凍りついたらんまは突然込み上げてきたやるせない悔しさをキュッと握っ た拳でこらえた。 (・・・バカ野郎だ! こいつも、あかねもみんな揃いも揃ってバカばっかしで、 ばっかしで・・・でも、みんな・・・いー奴だよ! 悲しくなるくれえにいー奴な んだよな・・・でも、おれは・・・) 「・・・何でえ、しつけー野郎だな、おめーも! いーかげんコリてあきらめるか と思ったぜ!」 エヘヘと無理に笑って同じように空を見上げながららんまはほとんど冗談のように 言った。良牙はジトッとその横顔をにらんだ。 「・・・な〜るほど! それが貴様の目的だったんだな? 最初っからおかしいと は思ってたぜ、わざわざ俺とあかねさんの仲を取り持つなんてな!」 「・・・おめーが傷つくだけなんだぜ?」 フッと顔を向けたらんまはしかし心底心配そうな表情でジッと良牙を見つめた。 「あきらめろよ、な? もういーかげんいい潮時じゃねーか。何も好き好んでこれ 以上傷つくこたァねーだろ? な?」 「・・・傷じゃねえ」 キョトンとらんまを見つめ返していた良牙はやがてニッと笑うと腕を組んでベンチ にドカッと座り直した。 「勲章だぜ、俺にとっちゃな!」 「なっ・・・!?」 その一言をらんまは理解できなかった。らんまは思わずカッとなって大声で怒鳴っ てしまった。 「いつまでも夢みてーなことウダウダ抜かしてんじゃねーよっ!! おれ、本っ気 でおめーのために言ってやってんだぞ!? 手が届きもしねえ夢追い駆けて何の得 になるってんだよっ!? じじいになってからあきらめたって手遅れなんだぜ!? 今が一番いいあきらめ時じゃねーかっ!!」 「・・・本気で言ってんのか、乱馬?」 意外そうに聞く良牙にハッと我に返ったらんまはカアッと頬を染めながらうつむい た。 「ほ・・・、本気だよ! ・・・つれーんだよ。・・・おめーの苦しむ姿見るの。 だから、おれ・・・」 「・・・な〜んにもわかっちゃいねえんだな、お前は?」 良牙はフッと笑って前を向いた。らんまはえ? とその横顔を見つめた。 「あんまりがっかりさせねえでくれよな、乱馬? いいか、2度とは言わねえから よく聞けよ」 良牙は夢見るような顔で夕焼け空を見上げた。 「・・・夢って奴はな、手が届かねえからこそ夢なんだ。そしてそういう夢であれ ばこそ自分の命すら懸けて追う、・・・それが男ってもんじゃねえか?」 「・・・あ」 らんまは生まれて初めて太陽を見た時のような新鮮な驚きに包まれて呆然と良牙を 見つめた。それとともに、たまらなく良牙が羨ましく思えて来てドキドキ胸が高鳴 るのを不思議に感じた。 「まあ、そう言うことだ。忠告はありがてえがその気持だけもらっておくぜ!」 良牙はスッと立ち上がるとポッと見つめるらんまにニッと笑って親指を突き出して 見せた。それからおもむろに1人歩き出した。 「じゃあ俺はもう戻るぜ。あかねさん他の奴に取られねえようにせいぜい頑張るん だな、乱馬!」 「・・・あ、良牙!」 らんまはあわててパッと立ち上がった。良牙は何事かと振り向いた。 「何だ、乱馬? まだ何か用か?」 「・・・あ、何かつれえことあったら、もし良かったら・・・」 らんまは少しはにかんで笑って見せた。 「良かったらおれんとこ来いよ! いっしょにバカ騒ぎ付き合ってやるぜ! あ、 うん、そんだけ! じゃーな、良牙!」 「・・・ん? ああ、あばよ、乱馬」 エヘヘと笑うらんまを不思議そうに見つめた良牙はまあ、いいか、と後ろ手に手を 振って再び歩き出した。らんまは何か晴れやかな気持でニッと笑いながら見つから ないようにその背中に小さく手を振り返したのだった。 「・・・さて、と」 良牙の姿が見えなくなってフッと息をついたらんまは、クルッと振り向いてそれら しい茂みを見つけると少しフザけるように呼びかけた。 「お〜い、出て来いよ〜、あかね〜? いるんだろ〜? 良牙食わねーで行ったか らその分おめーにやるぜ〜? じゃねーとおれが食っちまうぞ〜?」 一瞬のためらうような沈黙の後、あかねがペロッと舌を出してデヘヘと笑いながら その茂みの陰から出て来た。 「そ、そ〜お? じゃ、お言葉に甘えてもらっちゃおーかしら、エヘヘ」 「ほら、やるよ! 歩きながら食おーぜ」 らんまはヤキイモを1本パクッとくわえると残りを袋ごとあかねに渡した。 エピローグ 「すべての男は遠視ですべての女は近視、かぁ・・・」 夕焼け空を眺めながららんまとあかねは天道家への帰り道を歩いていた。ヤキイモ の最後のひとかけらをパクッと口に放り込んだらんまは両手を頭の後ろに当てて思 い出したようにつぶやいた。 「なーに、それ? 眼鏡屋の広告か何か?」 あかねが2本目に取りかかりながら聞いた。らんまはクスッと笑ってあかねに振り 向いた。 「な? やっぱおめーもそー思うよな? ほんとは喫茶店のテレビでやってた映画 のセリフなんだけどな」 「ふ〜ん・・・」 あかねは冗談ともつかない顔でニッコリ笑って言った。 「じゃ、さしずめあんたは遠近両用ってことよね?」 「冗談はよせ〜」 らんまはあえて構えまでして両手を大きく横へ振って見せた。あかねは苦笑いする ばかりだった。 「ふっ、古いギャグを・・・」 「あ、そうそう!」 その時、急に思い出したようにポンと手を打ったらんまが手を後ろに組んで夕焼け 空を見上げながらまるで棒読みのように言った。 「おれはあかねの方がやっぱりきれいだと思うなァ、あの夕焼けよりもォ」 「・・・はあ? 気でも狂ったの、あんた?」 あかねはデ〜という顔ではた迷惑そうにらんまの横顔をジトッとにらんだ。ん? と振り向いたらんまはピッと指を立てて答えた。 「ほら、あん時良牙が言いたかったことだよ。おめーが急に逃げ出したんで良牙の 奴すげーびっくりしたってさ!」 「・・・へ? そ、そーだったの?」 狐につままれたような顔で聞き返したあかねはウンとうなずくらんまに心底残念そ うに肩を落としてハア〜ッとため息をついた。 「な〜んだァ、がっっっかり!! じゃあ良牙くんに悪いことしちゃったわね、あ たし。後であやまっといてよ、乱馬?」 「・・・ん? 何て?」 シレッと向こうを向きながら口笛混じりに聞くらんまにあかねは言いかけてウッと 詰まってしまった。 「あ・・・、や、やっぱいーわ。あたしが直接あやまるから・・・」 「ま、それが当然だろーな」 意地悪げにニイッと笑うらんまにあかねは止むなく顔を引きつらせながらエヘヘと 笑い返すしかなかった。いくらか先の方に夕焼けに赤く染まる天道家が見えて来た ところだった。 【 見果てぬ夢を 】終わる