SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
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投稿日時:1994/ 6/ 2 1:33 投稿者ID:QKM33822
#1675/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 6/ 2   1:33  (163)
小説>らんま「親父の手」1 altjin
★内容
【 親父の手 】                  小説 ”らんま1/2”

                                                  ID:QKM33822 altjin

  プロローグ
「さあ、出来ましたよ」
かすみはニッコリ微笑んで見せた。玄馬はその、右手に巻かれた包帯をジッと眺め
てからペコッとおじぎした。
「有り難う、かすみくん」
「・・・ん? どーしたんだよ、親父?」
そこへちょうどやって来た風呂上がりの乱馬が、玄馬の手の包帯をジッと見つめな
がら聞いた。
「あのねえ・・・」
「わああああ〜っ! 言うなっ、言わんでくれっ、頼むっ!」
柱によりかかって一部始終を眺めていたあかねが答えようとした時、あわてて玄馬
がブンブン手を振りながら大声で止めた。
「・・・」
乱馬は子供のような軽い驚きの表情でなお玄馬の手の包帯を目で追うように見つめ
続けていた。玄馬はフンッと乱馬から顔を背けるようにズンッと座り込んだ。
「火中天津甘栗拳の特訓に失敗して火傷したなぞと、恥ずかしゅうて口が裂けても
言えんわっ!」
「・・・」
なびきが無言で玄馬の前にテープレコーダーをポンと置くと、自動部分リピートに
して『火中天津甘栗拳の特訓に失敗して火傷した』の部分だけを延々と流した。
「・・・なっ!? ぬおおおお〜っ!! ぬかったわあああ〜っ!! せ、せめて
乱馬を見返してやりたいからという理由だけは隠し通さねばあああ〜っ!!」
手で抱えるようにブンブン振る玄馬の頭を乱馬がドベシと踏んだ。
「筒抜けだ、バカ親父」
「・・・笑いたくば笑うがいい」
玄馬はもはや開き直ってフッと笑いながら腕を組んだ。
「せめて今1度、お前の目標たらんと望んだが、やはり寄る年波、手が思うように
動かなんだ・・・」
悲しげにジッと見つめる包帯巻きの手、いつもならすかさず茶化すはずの乱馬も何
かを思い出すようにそれをジッと見つめるだけで、あかねは不思議そうに乱馬を見
上げた。
「?」
「・・・!」
その視線でようやくハッと我に返った乱馬は、ポケットに手を突っ込んでなぜかご
まかすようにヘッと笑いながら自分の部屋へと去って行った。
「い、いーかげん自分の歳考えて行動してくれよな、親父!」

  1.それは安らぎ
「・・・親父の手、か・・・」
部屋に入って戸を閉めた乱馬は、何かを考えるように座り込むと、自分の手をジッ
と見つめた。
「・・・まだ大きいんだよな、手の大きさだけは親父の方が」
乱馬は幼き日の自分に戻っていた。改めて思い出す、父の手の大きさ、温もり、そ
して安らぎ。乱馬が1つ技を覚えると、そのたびに玄馬は幼い乱馬の頭をいかにも
嬉しそうに手でクシャクシャと撫でてくれたものだった。乱馬はそれがとても嬉し
くて、ずっと一生懸命に頑張って来たのだ。
(・・・気がついたら、親父もいつの間にかしてくれなくなってたんだっけ。何か
懐かしいな・・・とても)
その懐かしさは胸がフワッと暖かくなるような切なさでもあった。
(・・・あの頃が、一番幸せだったよーな気がする・・・)
玄馬と2人だけで過ごした日々、紅葉に燃える山、とっても冷たい雪解けの小川、
熊との格闘、大猿退治、とてもたくさんの新しい街と人々、かつてはそれが乱馬の
『日常』だったのだ。常に新鮮な世界は時にはとても恐かったが、いつもそばで父
が微笑んでいてくれたから乱馬にはそれもまた楽しい一時だった。いつもそばに父
がいてくれたから・・・
「・・・何ニヤけまくって手相見てんのよ、乱馬?」
「☆!」
その『幸せな思い出』はあかねの声で不意に途切れた。あかねはよく暑くないわね
と言うように戸を思い切りガラッと開けながら入って来て、乱馬の肩越しにその手
をのぞき込んでいた。
「へえ・・・。あんた、けっこー細やかな手相してるのね? もっと大雑把な感じ
かな、って思ってたわ、あたし」
「あのなっ・・・!」
乱馬はニラむように振り向いた。あかねはニコッと笑って自分の手相を見せた。
「ほら! あたしよりずっと細やかよ、あんたの手相」
「・・・」
キョトンとした顔でその手のひらをジッと見つめていた乱馬はやがてボソッと言っ
た。
「・・・何か、むちゃくちゃ大雑把だな、おめーの手相」
「ヘヘ、まぁ〜ね〜!」
自分でも十分承知しているのか、あかねは悪戯っぽく苦笑いして見せたのだった。

「・・・お」
さあ、その日の夕食は、あかねたちは笑いを押し殺すのに必死だった。なぜなら、
偶然にもおかずに玄馬の大好物の1つである里芋の煮っ転がしが出て、玄馬は慣れ
ない左手で箸を不器用に使いながら、1つでも多くの里芋を確保せんと、さかんに
テーブルに里芋を転がしまくったのである。
「早乙女くん、そんなに焦らなくても、わしらは里芋には手を出さんから、もっと
ゆっくり食べていーんだよ?」
早雲も半ば笑いながら、かすみたちとうなずき合うように言った。しかし玄馬は、
こういうどうでもいい部分にはけっこう頑固な男だった。
「いや、心配御無用、天道くん! せっかくのおいしい里芋をわしが1人占めする
などもったいない! どうぞみな、わしに構わず召し上がってくだされ、とと!」
そう言うそばから里芋は玄馬の箸を逃れてあっちへコロコロそっちへコロコロ飛ん
で行くわけである。ウンザリしたようにため息をつきながら乱馬がその箸をバッと
取り上げた。
「んも〜、しょーがねーなぁ、ったく! 俺が食わせてやっから、親父は黙って口
開けてろよ!」
「う・・・、そ、そうか? す、すまんな、乱馬?」
早雲は一瞬玄馬が意固地になって食べるのをやめてしまうかとも思ったのだが、子
に優しくされるのはどんな親でも嬉しいものか、玄馬はちょっと照れながらア〜ン
と口を開けたのだった。
「・・・へえ。優しーんだ、乱馬くんって?」
なびきがそのやり取りを眺めながらとても意外そうに言った。乱馬はそれでも、ム
ス〜ッと顔を赤らめつつ、ちゃんと玄馬に食べさせてやるのだった。
「そりゃー、ね? 親子だもん、ね、やっぱり!」
あかねが心暖まる様子でそれを眺めながらなびきに答えた。それを聞いてか、早雲
が物欲しげにあかねにエヘヘヘと笑って見せた。
「あかね〜? わしもい〜な〜、あ〜ゆ〜の〜」
「良かったね、お父さん?」
あかねはニッコリ微笑んでうなずいて見せた。早雲はあれ? と箸をくわえて笑顔
のまま凝固したのだった。

  2.それは愛
「ふ・・・、手相か」
次の日、良牙が歩きながら自分の手をジッと見つめていたのにはわけがある。乱馬
たちの町に入るあたりでたまたま呼び止められた手相見に、あんたには1つだけ、
大恋愛の卦が出ておる、必ずや結ばれるであろう、と言われたのである。
「・・・モテそうな、手相・・・なんちってか!?」
嬉しさもここまで来るとほとんどバカだが、それに気づかないところが良牙の可愛
いところではあろう。ナハハハと十二分に笑った良牙は例によって例の如く、懐か
ら、雲竜あかりからの手紙を取り出した。この町へ入る前に読めば良いものを、そ
れに気づかないところも可愛さと言ってよいものだろうか?
「さて・・・。だが、『1つだけ』だ。だとすれば、あかねさんか、あかりちゃん
かのいずれか1つであろうことは間違いねえはず! 俺がこの町へ入るまであえて
読まなかったのはそうした深い読みの上でのこと、わかったかっ、貴様!」
私に言われても困る。
「すなわち、ここで手紙を開き読もうとする・・・。もし、やはりあかねさんが運
命の相手であるなら、必ずや運命の導きでそれを妨害するはず! まさに、この手
紙自身が俺の運命を教えてくれる、ってえわけだぜ! ふはははははっ!!」
まあ、そう言うわけで、良牙は手紙を開こうとした。
「てめーっ、待ちやがれっ!!」
突如聞こえるらんまの声。水を浴びせて触りまくった八宝斉に、さすがのらんまも
日頃の鬱憤が爆発してしまったのだ。
「くそっ、よりによってこの大事な時に・・・!」
良牙にもちゃんと学習機能は付いている、とにかくらんまが遠くへ去るまで待とう
と、手紙を隠すように電柱の陰に身を寄せた。
「ひょほほ〜い!」
八宝斉がヒョイヒョイと通り過ぎて行った。
「おめーのおかげで靴がすぐ傷んじまうだぞっ! せめて弁償ぐれーしやがれって
んだ!」
らんまが通り過ぎる。壁を向いたまま良牙がニッと笑ったその時、
「八宝大華輪一夏限りの限定版っ!!」
「でええ〜っ!?」
らんまがあわてて横へすくい飛ばした花火が良牙の足の間からコロコロと壁に当た
り止まる。
「・・・げ!?」
と良牙が言う間もなく花火はちゅど〜んといつにない凄まじさで爆発した。

「あ、あれ・・・? りょ、良牙? な、何やってんだよ、そんなとこで!」
爆風を腕でかばってよけたらんまは、消え行く煙の中に人影を見つけてギョッと近
づいて、ようやくそれが良牙であることに気づいてあわてて駆け寄ってのぞき込ん
だ。
「・・・」
前半分煤だらけの良牙の手には、手紙の燃え端だけが残っていた。放心し切ってい
た良牙は、やがてコホッと煙を吐きながらユ〜ックリらんまへと顔を向けた。
「・・・貴様。わざとやってるだろ? わざとだろ、な、な?」
「ご、ごめん・・・。で、でもわざとじゃねーから! まさかおめーがこんなとこ
にいるなんて知らなかったもん、おれ!」
らんまは一応心からすまなげに謝ってから、拳を握って自分に非が無いことを力説
した。
「わざとだと言ってくれ! 運命、のみち・・びき・・・なんかじゃ・・・ねえ、
と・・・!」
らんまの肩に食い込むようにズンッと手をつきながら心底困り切った顔でつぶやい
た良牙は、そのままらんまにズルズルと抱きすがるように気を失ってしまった。
「えっ、えっ・・・? あ、あの、ちょっと・・・、りょ、良牙?」
ドキッと頬を赤らめながらもあわてて良牙の背中に手を回すように抱き支えたらん
まは、そのまま自分の肩の頭を乗せてピクリとも動かなくなった良牙にサアッと顔
を青くしたのだった。
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