SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
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投稿日時:1994/ 6/ 2 1:36 投稿者ID:QKM33822
#1676/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 6/ 2   1:36  (131)
小説>らんま「親父の手」2 altjin
★内容
  3.そしてそれは・・・
「・・・ん、うう・・・ん!」
うめいた良牙は不意にパカッと目を開けた。後頭部が柔らかく暖かく、額がとても
涼しい。真上に、頭の上に遠くの空を眺めながら口笛を吹くらんまが見えた。
「・・・あ! 目ぇ覚めた、良牙っ?」
しばしジッと見上げる良牙にようやくらんまが気づいてニコッと笑いながら顔を下
ろした。良牙はドキッと頬を赤らめてプイッと横を向いた。
「あ、ああ・・・!」
額に乗っていた冷やしたタオルがズッとらんまの膝に落ちた。あぐらの足の間に良
牙の頭を乗せながら、らんまは鼻歌混じりにそのタオルをスッと拾い上げた。
「良かった! 一時はどーなるかと思ったぜ!」
「お・・・お前が・・・看病してくれたのか・・・今まで?」
良牙は横を向いたまま、ポウッと頬を染めてぶっきらぼうに聞いた。らんまはヘッ
と笑ってタオルを自分の肩にヒョイと乗せた。
「あかねじゃなくて悪かったな、良牙? これからあかねん家に行って休ませても
らうか?」
「あ・・・い、いや・・・、俺は・・・別に・・・」
空き地の若草の香りがなまめかしい。良牙は動きたい気持ちになれなくて、らんま
のあぐら枕に頭を乗せたまま、そよ風にそよぐ草をジッと見つめていた。
「もう少し・・・こうさせて・・・いてくれ・・・ねえか、乱馬?」
「ああ、いいぜっ、おれは別に!」
らんまは遠くの空を見上げるように後ろ手をついてのけぞりながら、また軽やかに
口笛を吹き始めた。
「もとはと言やあおれのせいだ。ゆっくり休んでていーぜ、良牙? ん?」
「・・・」
聞こえない返事にらんまがあれ? とのぞき込んだ時には、良牙はもうクースー寝
息を立てて、幼子のように安らかに寝入っていた。らんまはクスッと笑うと、今度
はまどろむような優しいメロディーの子守り歌をソッと口ずさんだのだった。

「・・・!」
不意にらんまがビクッと空を見上げた。その揺れで、良牙もハッと目を覚ました。
「なっ・・・ど、どうした、乱馬?」
「・・・間違いねえっ!」
良牙が身を起こすのを待ってバッと爪先立つように立ち上がりながら空の一点を凝
視していたらんまは、やがて1人うなずくように言った。
「親父の眼鏡だ、あれ!」
「?」
良牙がらんまの目線を追うように空を見上げると、何か光るものをくわえたカラス
が飛んでいるのが見えた。なるほど、確かに眼鏡のようである。
「しかし、貴様の親父のものとは・・・!」
良牙が心配するな、と言うように顔を下ろすより早く、らんまはカラスを目で追い
ながらダッと駆け出していた。
「いやっ、見間違えるはずがねえっ! 物心ついた頃から見慣れてんだ、とにかく
取り返さなきゃっ!」
「まっ・・・バッ、バカッ、危ねえぞっ、乱馬っ!」
あわてて良牙も、らんまの足元を確かめながらダッと後を追ったのだった。

「あそこが巣だなっ!? よ〜しっ!!」
カラスは2つほど家を置いたとなりの空き地のはずれにある大きな木の葉の茂みの
中に消えた。その下まで駆け寄ったらんまは、バッと腕まくりするとピョンと飛び
上がるように幹に抱きついた。
「そ、そんなに大事なもんなのかっ、乱馬?」
そのすぐ後に下へ駆けつけた良牙が、木をよじ登るらんまを見上げながら怪訝そう
に聞いた。
「わかんねえ! でも、おれがいーかげん新しい眼鏡買えよって言っても、親父は
笑って、あれが一番自分には合うんだって言ってた! どっちにしても10年以上
も愛用して・・・!?」
不意に、葉の茂みからあわてたように3羽のカラス−−1羽は子供だろうか、小柄
だった−−がバサササッと飛び立って行った。眼鏡はくわえてない。
「・・・何かいるんじゃねえのかっ、乱馬っ!?」
下から心配そうに呼び掛ける良牙に、らんまは平気平気っと手だけ振って見せた。
「願ってもねえっ! この隙にっ・・・な゛っ!?」
らんまが最初の枝にやっと手をかけたその時、茂みの奥からガサッと首を出したの
は1匹の−−−猫だった。
「あ゛〜っ!!」
ニャ〜ンと鳴く声にらんまは叫ぶよりも早くバッと両手を放して、そしてもちろん
真逆さまに落ちた。
「痛っ・・・、だっ、大丈夫かっ、乱馬っ!?」
あわてて良牙が下から抱き止めたが、勢い余ってそのままあおむけにドッと倒れて
しまった。らんまは後ろを見るのも恐いというようにブルブル震えて泣きながら良
牙にヒシッとすがりついている。
「猫やだ〜っ! 猫嫌〜いっ! あ゛〜、ど〜しよ〜ど〜しよ〜っ!!」
「・・・」
しばし呆然とそんならんまを見つめていた良牙は、やがて、しょうがない奴だな、
と言うようにクスッと笑うと、乱馬の頭をポンと叩いて身を起こした。
「・・・俺が取って来てやるよ。もう泣くなよ。男だろ、お前は?」
「・・・!」
自分の頭を優しく、力強くクシャクシャ撫でる手、この感じ、とても懐かしい過去
の安らぎ、らんまは一瞬、紅葉に燃える山も、とっても冷たい雪解けの小川も、昔
良牙と2人だけで訪れた思い出だったような錯覚にとらわれた。
「・・・あ、う、うんっ」
地面にペタッと座りながら、らんまはキョトンと遠くを見つめるようにようやく我
に返ってコクッとうなずいた。涙は−−まだ時たまシャックリとともにポロッと出
はするものの−−いつの間にか、もう止まっていた。
「そこで待ってろっ、乱馬っ!」
良牙は言いながら、早くも木に登り始めていた。
「・・・あ」
またデジャ・ブだ。巣から落ちたひなが可哀想と泣く乱馬のために、親鳥の攻撃を
意にも介さず木へ登って巣へ返してくれたのは、玄馬だったのか、それとも、今ま
さに良牙がそうしているのと何かがごっちゃになってしまったものか。
「・・・良牙」
らんまはズンズン上へ登って行く良牙を、ただジッと心配そうに見守っていた。や
がて、良牙の足も葉の茂みの中に隠れ、それからフギャ〜ッと威嚇する猫の声、ド
スンバタンと重い音がして、獅子咆哮弾! と叫ぶ良牙の声とともに、タラッと汗
を流すらんまの目の前で葉の茂みの上半分が見事にボンッとふっ飛ばされた。猫も
ウニャ〜ッと鳴きながら向こうの方へ同じくふっ飛ばされて行った。
「あったぞ〜! これだろ〜、乱馬〜!?」
その裸になった木の部分から葉っぱまみれの良牙が顔を出して、いかにも嬉しそう
に笑って眼鏡をかざして見せた。らんまはなぜかとても愉快な気持ちになって、ク
スッと笑ってうなずいて見せた。
「あ〜、そ〜だよ〜、良牙〜! 早く降りて来な〜!」

  エピローグ
「ただいま〜! 親父〜!」
結局、良牙はその後すぐに旅に出て、らんまは1人で家に帰るとガラッと玄関の戸
を開けながら玄馬を呼んだ。代わりに、ウププッと笑いをこらえながらあかねが出
て来た。
「おかえり、乱馬っ! 早く来なさいよ、今すっごく面白いの!」
「何だよ〜、あかね〜?」
玄関に座って靴を脱ぎながららんまはにらむようにジトッとあかねを見上げた。
「それよか、親父はどこだぁ?」
「だ・か・らっ、早く茶の間に来てっ! おじさまもいっしょだからっ!」
ウププッと笑いをこらえながらヘコヘコ手招きするあかねは、さながら酔っ払った
シャンプーだった。らんまはうさんくさげにあかねを横目でにらみながら、茶の間
へと廊下を歩いて行った。
「親父〜! いる・・・う゛!?」
スッとフスマの戸を開けると、まるで合わせるようにタイミング良く背中を向けて
座っていた玄馬が振り向いた。その途端らんまはウッと息を詰まらせ、そして次の
瞬間には腹を抱えて大爆笑してしまった。
「だわはははははっ! にっ、似合わね〜っ、全っっっ然似合わね〜っ!!」
振り向いた玄馬は真四角の黒縁眼鏡をかけていたのである。四角い顔に四角い眼鏡
で、その下から恥ずかしげにのぞく目までが四角く見えた。
「だ、だからわしはあの眼鏡じゃなきゃ嫌なんじゃいっ、ったく・・・!」
ブチブチ言う仕草が妙に眼鏡とマッチして、それまでこらえていたあかねも、部屋
の中のかすみやなびき、早雲もついに耐え切れずに大爆笑してしまったのだった。
そしてその笑いは、寝る直前にようやくらんまが玄馬の眼鏡を返してから、いや、
逆に今度はその丸さが妙におかしくて、結局らんまたちはその夜は、ようやく眠り
かけたかと思うと思い出すようにプッと笑ってしまってほとんど眠れなかったそう
である。

【 親父の手 】終わる
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