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投稿日時:1993/ 9/12 11:32 投稿者ID:QEG72756
#1135/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QEG72756)  93/ 9/12  11:32  (109)
考察>らんま完結! 第1回(2/2)    飛鳥 杏華
★内容

   新たなる出発

 その負けたくない高橋留美子も、「らんま1/2」のすべり出しには、かなり苦
しんだようである。読者にとっても、作者にとっても巨大であった二大連載のあと
を受けて登場するのである。この作品は、登場と同時に、いや、登場すること自体
が茨の道の選択であったと言っても過言ではなかろう。

 特に、読者の側にあるものは大きい。恐らく、多くの読者が二大連載の余韻を引
きずっていたはずである。意識と無意識とにかかわらず、読者の中に高橋留美子の
漫画とはこういうものだという先入観や固定観念が生まれ、あるいは根付いたこと
は否定できないところであろう。

 だが、作者の方は逆である。前述のように一時は迷ったかもしれない。しかし、
彼女はあえて過去を断ち切り、ゼロからの新たなる出発を選んだ。それにあたって
彼女は、「これは『うる星やつら』や『めぞん一刻』の続編じゃないぞ。」という
ことをまず、「らんま1/2」のスタートにあたって、読者に伝えようと試みてい
るのである。

 まず、何といっても目を引くのが、ヒーローとヒロインが反発し、意地を張り合
うというパターンであろう。過去の二大連載では、一方が他方を追いかけ、追いか
けられた方が意地を張るというパターンであった。この違いを前面に提示すること
が、何よりも手早く、わかりやすい。だが、そんな単純な提示だけで、続編パター
ンの否定を行ったわけではなかった。さまざまな伏線を張り巡らし、実にさり気な
く巧妙に仕組んでいるのである。

 まず、乱馬が登場してきたシーンを思い出してみよう。猛々しい女の子がパンダ
と争っている。ここまで、予告カットでも、扉絵にしても、女らんましか描かれて
いない。読者は当然、今度の主人公は女の子だと思った、いや、思わされたに違い
ない。あるいは、この登場シーンを見て、今度の主人公は「うる星やつら」の竜之
介タイプかと思った読者もいたであろう。

 女の子が主役。それは、名目上は男が主役でありながら、実際には女性キャラの
魅力が作品の前面を飾っていたという印象のある二大連載と実質的には何ら変わり
がなく、読者はこの段階では違いを認識できない。むしろ、一瞬、竜之介を思い浮
かべた読者には、過去の路線の継承を思わせるものであったかもしれない。

 だが、これは第1話の最後で一気に覆される。乱馬は実は男だったという事実の
提示である。この一発逆転劇で、この作品は、過去の続きとは違うのだということ
を強く印象づけようと試みているのである。また、一瞬、竜之介を思い浮かべた読
者に対して、実にさり気なく「うる星やつら」の続編パターンであることを否定し
てみせたものだとも言えよう。

 そして、もう1つ。天道早雲が、最初に乱馬の来訪を娘たちに伝えたシーンでの
かすみの言葉である。
「いくつなのよ。年下はいやよ。」
 これは、年下の五代と結ばれた響子のパターンの否定であり、これを、響子とイ
メージの重なるかすみに言わせたことで、「めぞん一刻」の続編路線を一刀両断に
切り捨てたものだと言ってよいだろう。

 さらに言うならば、初期設定の天道三姉妹は、高橋留美子のそれぞれの作品を象
徴する存在であったとも言えるのである。


   天道三姉妹の秘密


 長女かすみが、「めぞん一刻」を象徴する存在であることは、誰もが「言われて
みれば」と納得するところであろう。天道家の母親役を勤め、家庭的で落ち着いた、
どことなくほのぼのとした雰囲気を持っている。これは、「めぞん一刻」という作
品及び響子と重なり合うイメージである。

 また、「かすみ」という名は、春を表すものである。春の霞、秋の霧といって、
同じ気象現象を日本では、季節とともに言葉を変えて表現してきており、「かすみ」
は、春の季語なのである。春といえば、「めぞん一刻」という作品全体のイメージ
も、ストーリーの節目になっているのも「春」であった。このあたり、実に巧みな
ネーミングであると言えよう。

 次女なびきは、「うる星やつら」を象徴する存在である。これには異論、反論が
殺到するかもしれない。しかし、「なびき」という、ほとんど強引なネーミングが、
何を意味するのかを考えたことがあるだろうか?

 「なびき」が「なびく」という動詞からきているのは、すぐにわかる。しかし、
普通では考えられない名前である。これは、当初設定のなびきの性格を表そうとし
たものだと考えられる。即ち、何かに「なびく」性格ということである。これは、
すぐに金銭に「なびく」性格に変わってしまったが、この初期段階では、金銭では
なく、男(異性)に「なびく」性格として描かれていたのである。

 父、早雲が三姉妹に許嫁の話を切り出したとき、ただひとり身を乗り出して興味
を示している様や、乱馬が天道家に着いたとき、両拳を口元にもって行き、わくわ
くしながら、はしゃぐようにして出迎えに行く仕草は、後のどちらかといえばクー
ルな印象とは全く異なっている。このことからしても、後に自ら「金の奴隷」と称
したなびきとは設定が異なっていることがうかがえる。

 さらに、乱馬が女だった(と思った)ことに対して、明らさまに「がっかりした」
と表明している様や、「これのどこが息子なのよ」と早雲に半ば食ってかかるよう
な態度…。これらを考えると、やはりこの初期設定段階では、男(異性)に「なび
く」なびきであったと言えよう。

 もう、ここまで言えばわかると思うが、これをそっくり性別を入れ替えて考える
とどうなるか? そう、なびきは、女に「なびく」諸星あたるを象徴するものとし
て描かれているのである(第1話のコミカルな部分の表情などは、まさに、あたる
顔である)。

 この2人(2作品)を姉に持つあかねは、当然「らんま1/2」を象徴する存在
である。そして、この「らんま1/2」のヒロインの名は、ゼロからの新たなる出
発であることを裏付けるかのように、(字こそ違うが)デビュー作「勝手なやつら」
のヒロインと同じなのである。

 ここで、主役である乱馬の許嫁が、すんなりとあかねに決まったことは、2人の
姉(二大連載)が主舞台から下りたということであり、「らんま1/2」という作
品が「うる星やつら」や「めぞん一刻」のつづきではなく、新たなる第3の作品と
して主舞台に上がったのだということを示唆したものであったと言えよう。



 「らんま完結」第1回 −終−

                    QEG72756   飛鳥 杏華
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