SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
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投稿日時:1994/ 1/ 8 13:12 投稿者ID:QKM33822
#1299/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 1/ 8  13:12  (174)
小説>らんま「あはのどかのあ」1 SAMWYN
★内容
【 あはのどかのあ 】               小説 ”らんま1/2”

                                                  ID:QKM33822 SAMWYN

  プロローグ
「お・ば・さ・まっ!」
今や耳慣れたその元気な声にのどかはパアッと顔を輝かせてトタタタと玄関へ急い
だ。
「まあ、いらっしゃい、乱子ちゃん!」
「お邪魔します、おば様」
キャピッと嬉しそうに喜ぶらんまの後ろから、続いてあかねが折り畳み式梯子を手
に入って来た。

  1.ミリヤム
「本当にごめんなさいね、あかねちゃん。梯子まで貸してもらっちゃって」
梯子を屋根へと立てかけながら振り向いたのどかはすまなそうにあかねに微笑んで
見せた。
「いえ、いーんです、おば様。こんなの滅多に使わないし、うちはら・・・あ、い
え、その、あ、あたしがヒョイヒョイ屋根登れちゃいますから!」
「まあ!」
ごまかすように笑いながら腕まくりして見せるあかねをのどかは驚いて少し心配そ
うに見守った。
「あんまり無理はしないでね、あかねちゃん。あなたにもしものことがあったら、
私・・・本当は乱馬がするべきことなのに・・・」
「おっ、おばさまっ! あたしがやるわっ!」
もちろん最初から自分がやるつもりだったのだが、らんまはまるで正体が今すぐに
でもバレるような気がしてあわててヘラヘラ笑いながら素早く梯子をパパッと登り
始めた。
「あ、無理しないでね、乱子ちゃんも!」
「へーきへーきっ! あたし、昔っからこーゆーの得意だからっ」
あわてて下から心配そうに見上げながら呼びかけるのどかに、らんまは任せてっ、
と言うようにクイクイとガッツポーズをして見せた。

「おば様・・・」
あかねはいつも、こうしたふとした瞬間に、この人が本当は自分の母の変装なので
はないかと言う感じがしてならなかった。
(この歳で女の1人暮しなんて・・・。どんなに寂しいのかしら・・・)
少なくともあかねにわかるのは、自分がそれを想像するだけで胸がしめつけられ目
頭がジワッと熱くなる寂しさ、それ以上に違いない、と言うことだけだった。
「なあに、あかねちゃん?」
そんなあかねの気持ちを知ってか知らずしてか、のどかは何の屈託もない笑顔で問
うようにあかねに優しくニッコリ微笑んで見せた。
「・・・おば様!」
その優しさはあかねの心をさらに深い悲しみへと傾けるばかりで、たまらずあかね
はこぼれそうになった涙をのどかの袖にギュッとすがりつくことでかろうじてこら
えたのだった。
「・・・なあに、あかねちゃん?」
この人はどうしてこんなに他の人に優しく出来るんだろう、一番寂しいのはこの人
自身なのに・・・のどかに優しく髪を撫でられながら、あかねはそう思わずにはい
られなかった。
「おば様! ・・・きっと、きっと乱馬にもすぐに会えるわ! 乱馬も早く会いた
いなって思ってる! あたし知ってるもん!」
のどかはクスッと笑って、一生懸命見上げるあかねの髪をまたあやすように撫でて
やった。
「・・・ありがとう、あかねちゃん。乱馬も幸せな子ね、こんなに乱馬のこと想っ
てくれるあかねちゃんと一緒になれるなんて」
「え・・・? そ、それは、その・・・」
ボッと赤くなってしまったあかねは照れをごまかすようにあわてて梯子に飛びつい
た。
「あ、あたし乱子ちゃんの様子見てくるねっ、お、おば様!」
「あわてて足踏み外さないでね、あかねちゃん」
のどかはそのあかねの初々しい反応に自分の少女時代を思い出したのか、またクス
クス笑いながら梯子を登るあかねを優しく見送った。

「ったく、竜のヤロー、よりによっておふくろんちの屋根であんなはた迷惑な技使
いやがって・・・」
屋根の中ほどあたりは瓦が吹き飛ばされて屋根板が見えていた。その中心あたりに
少し割れ目が出来ていて、そこから雨漏りがしていたのである。らんまはしゃがん
でその板を軽く押してみながらブチブチつぶやいていた。
「どーお、乱子ちゃん? すぐ直せそお?」
そこへあかねが梯子からニュッと頭を出した。
「ああ、こんくれーの」
振り向いたらんまは両手を肩幅ぐらいに広げて見せた。
「板当てときゃ大丈夫だ。それより、瓦5枚ぐらい余ってねーかな?」
「瓦ぁ? ・・・あっ!」
あかねが聞き返したその時、不意にらんまの横にヒモでまとめられた10枚ほどの
瓦がドンと置かれた。ギョッとらんまが振り向くと、そこに公紋竜が立っていた。
竜は当たり前のように平然と言った。
「そこで買って来た。余った奴はお前たちの好きにしろ」
「竜! てっめ〜・・・!」
ギッとにらむように立ち上がったらんまはメキョッと下がる屋根板にあやうく尻餅
を突きそうになった。このまま行けば屋根に大穴を開けて2階に転げ落ちるのは必
至である。あかねは思わず両手で顔を覆ってしまった。
「きゃあっ!!」
「あ゛ーっ・・・あ?」
ブンブン手を振りながらボロボロ泣いて叫んだらんまの体が不意にフワッと浮かん
だ。
「バカ野郎・・・! おばさんちの屋根に大穴開けるつもりか、お前は!」
竜がらんまの腰をかろうじて持ち上げていたのだった。少し頬を赤くして見上げる
ようにムスッと竜の顔をにらみながららんまは言いにくそうに謝った。
「ご・・・、ごめん・・・」
「乱子ちゃ〜ん、助けて〜」
そこへいきなりあかねの妙に情けない声がした。ストンと下ろしてもらったらんま
が梯子の上からヒョイと顔を突き出すと、足を何とか梯子に引っかけながら逆さに
なったあかねがスカートを必死に押さえ、恥ずかしさをごまかすような困ったよう
な笑顔でらんまを見上げていた。
「手え貸して〜。乱子ちゃ〜ん」
「・・・何やってんだ、おめー?」
何かわけがわからずに見下ろすらんまの横に腕を組んで立った竜の髪を冷たい風が
かき上げていった。
「出初式の練習じゃねえか?」

  2.ケルビム
「あかね、おめーは下行って板探して来てくれ」
とにかく助け起こしたあかねに、らんまは少し後ろを気にしながらそう言った。あ
かねはらんまの後ろに立って町の方を眺めている竜を心配そうにチラッと見ると、
らんまにコクッとうなずいて見せて梯子を下りて行った。
「わかったわ・・・気をつけて、乱馬」
「・・・」
らんまはスッと立ち上がると警戒するように竜へと振り向いた。竜もその気配に気
づいたのか、町へ向けていた顔をいぶかしげにらんまへと戻した。
「・・・何だ?」
「・・・おめー、まだおふくろのまわりウロついてやがったのか?」
キッとにらむらんまに、竜はまたフッと町へと顔を戻した。
「安心しな、おばさんの前には出てねえよ」
「んなこと聞いてねーよ!」
らんまはムカッとして怒鳴った。驚いたように竜がらんまに振り向いた。らんまは
意地悪げにニイッと笑って竜の目をにらみつけた。
「今度は一体何たくらんでんだぁ〜? え、早・乙・女・乱・馬さんよォ?」
「・・・」
少しうつむいた竜はまたすぐにプイッと横を向いてしまった。そのままだんまりを
決め込む気か、とらんまが思った途端、竜が口を開いた。
「・・・乱馬。お前、まだおばさんに名乗り出ねえのか?」
「・・・み、見りゃわかんだろっ」
今度はらんまが恥ずかしそうにうつむき、竜がそんならんまをジッと見つめた。
「・・・治るのか? その・・・女になる病気は?」
「びょっ、病気じゃねーよっ」
カッと顔を赤らめて情けなく竜をにらんだらんまは、また力なくうつむいた。
「・・・わかんねェ。治るかどーかも・・・」
「そうか・・・」
少しためらうように鼻の横を掻いてから、竜がボソッと言った。
「どうだ、取り引きしねえか? 乱馬・・・?」
「・・・取り引きぃ・・・?」
いぶかしげに見上げるらんまに、竜は気恥ずかしさを隠すようにバッと町の方を向
いてドッカと座り込んだ。
「・・・俺はな、乱馬? おばさんが心配でどうにもこの町を離れられねえんだ。
お前だって心配だろう? こんな町に1人ぼっちで」
「・・・竜」
らんまは不意に、こいつもおふくろが好きなんだな、と悟った。また、竜こそずっ
と長い間孤独に生きてきたことも思い出した。案ずるように見守るらんまにチラッ
と目をやって竜は続けた。
「そこで、だ。乱馬、お前が名乗り出るまで、俺が陰ながらおばさんを守ってやり
たい。いいか?」
「え・・・? い、いーかって、おめー・・・」
らんまはどう答えていいのかわからず、迷うようにうつむいた。竜が気を回すよう
に言い足した。
「いや、もちろんおばさんには絶対姿を見られねえようにうまくやる。今さらお前
の座布団取るつもりはねえ。おばさんをだましちまった俺のせめてもの罪滅ぼしだ
と思って、承諾してくれねえか?」
「・・・」
らんまは竜の真っ直ぐな目をジッと見守った。自分がこんな目でのどかを見つめら
れる日がいつか来るのだろうか、それすら今のらんまには定かではなかった。
「・・・おめーがどこで何してよーと、おれの知ったこっちゃねーやいっ」
プイッと横を向いたらんまをハッとした表情で見つめていた竜は、やがてペコッと
おじぎしてからシュタッと飛び去って行った。
「すまねえ、乱馬!」
「・・・」
竜の姿が消えるまで、らんまはその背中を見守り続けたのだった。

「ふ〜ん・・・そう」
板をのどかからもらって梯子を登って来たあかねは、らんまの話に考えるようにう
なずいただけだった。
「・・・ま、あいつなら安心して任せられるしな」
竜の去って行った方を見つめながららんまが無理に微笑んだのはあかねにはすぐに
わかった。
(乱馬・・・)
やっぱり言った方が、おば様なら事情を話せば必ずわかってくれる、あかねはいつ
もの質問を繰り返さずにはいられなかった。
「ねえ・・・? ほんっとに名乗り出る気ないの、乱子ちゃん?」
「バカ! 切腹だぞ、切腹! 名乗り出てすぐに死んじまうんじゃ意味ねーだろ、
何度言えばわかんだよ?」
らんまはクドいぞ、おめー、と言う顔であかねをにらみつけた。それであかねはい
つものように、心とは裏腹の言葉を返すしかなかったのだった。
「・・・ま、それもそーよね。あんたの腹だもん、あたしのじゃないし・・・」
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