SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
ホーム | About | 新着・お知らせ | フォーラム | ライブラリ | チャット公開ログ | メンバー紹介 | リンク | Copyright
投稿日時:1994/ 1/ 8 13:15 投稿者ID:QKM33822
#1300/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 1/ 8  13:15  (182)
小説>らんま「あはのどかのあ」2 SAMWYN
★内容
  3.内なる声
「本当にありがとうね、乱子ちゃん、あかねちゃん。お昼たんと食べて行ってね」
屋根の修理も終わり、下へ降りたらんまとあかねをのどかが家の中へ招き入れた。
テーブルについた2人は、のどかがいそいそと持って来たものを一瞬、げ? と言
う顔で見つめた。
「ゆ・・・湯豆腐・・・?」
「うふっ、湯豆腐大好きっ」
のどかがいかにも嬉しそうにニコニコ微笑んだので、らんまとあかねもついついつ
られてニパッと笑ってしまった。
「わ、わあ〜、嬉しい! おばさまの作る湯豆腐って天下一品ねっ」
「きゃあっ、嬉しいわっ、乱子ちゃん! おば様ね、いつか乱馬が帰って来たら、
湯豆腐だけじゃなくて、お豆腐のステーキとか、お豆腐のグラタンとか、お豆腐の
唐揚げとか、い〜っぱいいっぱい作ってあげよう、って思ってるのよ!」
のどかは夢見る少女のような顔でウットリと遠くを見つめた。
「ま・・・、まさに豆腐攻め・・・」
小皿へと移した湯豆腐をジイッと見つめながらボソッとつぶやくらんまにも気づか
ず、のどかはまだ自分の世界に浸っていた。
「ああ、せめて声だけでも聞きたい・・・」
「!」
ハッと見つめるあかねとらんまに、ようやくのどかも我に返って恥ずかしそうに微
笑んだ。
「あら、やだ! ごめんなさいね、おかしなとこ見せちゃって」

「声だけでも・・・か」
天道家への帰り道、のどかからプレゼントされたリボンを頭につけたらんまは寂し
げにつぶやいた。
「・・・今度電話してあげなさいよ、乱馬?」
案ずるように言うあかねを、しかしらんまはウンザリしたようにジロッと横目でに
らむばかりだった。
「バカ! 電話するヒマあんならうち来い、って言われたらどーすんだよ? それ
で行かなかったら、おれがおふくろ避けてるよーに思われるだろ!」
「・・・避けてるじゃない」
あかねは寂しげにうつむいてボソッと答えた。らんまは怒ったようにプイッと横を
向いた。
「・・・好きで避けてるわけじゃねーよっ」

「乱馬っ!」
その晩、天道家に不意に乱馬を呼ぶあかねの嬉しそうな声とドタタタ階段を下りて
縁側を走る音が響き渡った。
「乱馬っ!」
「何だよ、あかね?」
バンッと茶の間のフスマを開けたあかねはテレビから振り向く乱馬に思わずシェ〜
と後ずさってしまった。
「あ・・・、あんた、せめて男に戻ったらリボン取りなさいよっ」
「やだね。おふくろが付けてくれたんだ、今日1日は何があろーと取らねーよ。そ
れより、何の用だよ、あかね?」
ま、いーか、と気を取り直して乱馬の隣に座ったあかねは1冊のマンガ本を乱馬に
突き出した。
「ほら、乱馬! これ見てよ、これ!」
「ん、何だぁ・・・?」
『めぞん一角』のタイトルのその本の、あかねが開いて指さす部分に目をやった乱
馬はゲンナリとあかねに振り向いた。
「『およめさんにしてください』って、な〜にを今さら・・・」
「違うわよっっ!」
ベシッと乱馬の頭をはたいたあかねはよっくわかるようにツンツン指さした。
「ここよっ、ここっ! ほら、『声のラブレター』ってとこ!」
「! ・・・こ、これは・・・!」
ようやくガ〜ンと気づいた乱馬は真剣な表情であかねをジッと見つめた。
「そういやあ俺、おめーにラブレター出したことなかっ・・・」
「鈍いわねっ、っとにっっ!!」
たちまち乱馬の顔面にあかねの右ストレートがミシッとめり込んでいた。

「あ・・・、な〜るほど」
あかねと、さらに応援で加わったなびきたちの説明でようやく乱馬はあかねの言い
たいことがわかった。
「テープにメッセージ入れておふくろに聞いてもらうってことか!」
「ね? 修行中の乱馬から送って来たって言えば絶対平気よ!」
顔を輝かせて言い張るあかねの後ろで玄馬もウンウンうなずいた。
「わしが最初に紹介すればかあさんも信じてくれるじゃろうて。いくら何でもわし
の声は憶えておるだろうからな」
「よし!」
乱馬も今は力強くうなずいて見せた。
「じゃー、さっそく録音開始でいっ!」

  4.汝疑うなかれ
「えーっ!? ほんとぉ!? 嬉しいいいっ!!」
次の日曜日、あかねとらんまはそのテープを持ってのどかの家を訪れた。のどかの
あまりに無邪気な喜び様に、らんまとあかねも妙に嬉しくてついついのどかに合わ
せてピョンピョン跳ねてしまった。
「ほら、おば様! あたしたちにも聞かせてよ!」
あかねがのどかの背中を押して部屋へと急ぎ、のどかはさっそくテープレコーダー
を取り出してテープをカチャッとセットした。
「先週の間にうちのお父さんが乱馬たちのとこまで行って録音して来たの!」
ワクワクして声が出るのを待つのどかにあかねが嬉しそうに言い足した。
「・・・」
ところが、数分たっても声が出ない。らんまとあかねがあれ? と不審に思い始め
た頃に、ようやくのどかがポンと手を打った。
「あら、いけない。コンセント差すの忘れちゃった」

『・・・のどかよ。久しぶりじゃのう』
ようやく出た声に、のどかは手を合掌のように合わせてジ〜ンと聞き入った。
「ああ・・・! 何て渋い声なの、乱馬!」
「お、おば様、違う違う、それ、早乙女のおじ様の声」
スコ〜ンとズッコけたあかねたちがあわててフォローした。のどかは、え? と言
う顔で振り向いた。
「・・・あら? あの人ってこんな声だったかしら?」
『・・・いまだ大切な修行の最中ゆえ、乱馬をお前に会わせるわけには行かんが、
天道くんのたっての頼みで乱馬の声を届けることにした。それでは、紹介しよう。
これがわしとお前の息子、早乙女乱馬の声だ』
ググッと身を乗り出すのどかにつられてあかねとらんまもついつい身を乗り出して
しまった。

『・・・おふくろ』
「きゃ〜っ! いかす、いかすわ〜! 何て男らしい声なのっ、乱馬っ!」
第1声で早くものどかは腰砕けにのろけてしまった。そんなのどかがらんまには可
愛い少女のように思えて、おれ、おふくろ大好きだ、と改めて感じてしまうのだっ
た。
『俺が息子の乱馬だ。おふくろのことはあかねから聞いてる。俺も早くおふくろに
会いたい。そのためにも修行を頑張って早く男の中の男になるよ、約束する、おふ
くろ』
「・・・」
今はもうのどかは嬉し涙をハンカチでソッと拭きながらただただ乱馬の声の1つ1
つに嬉しそうにウンウンうなずくばかりだった。
『だから、おふくろも安心して、その日が来るのを待っていてくれ。おふくろの湯
豆腐、楽しみにしてるぜ』
「・・・え?」
のどかがギクリと顔を上げた。
「な、なぜ乱馬がそのことを・・・?」
「・・・!」
らんまとあかねはたちまちサーッと青ざめてしまった。
(しっ、しまった〜っ!! お、おふくろ、おれが小さい頃から湯豆腐好きだった
んじゃねーのかっ!!)
ブルブル震えて後ずさるらんまをチラッと見たあかねは決意の表情でバッと立ち上
がった。
「おば様っ!! 実はっ・・・!」
(も、もー終わりだぁ〜っ! おれは死ぬんだあああ〜っ!!)
らんまは明滅する『切腹』の文字に思わずバッと頭を抱え込んでしまった。

「実はっ、あたしが乱馬に教えたんですっ!」
数秒の凍るような意外な沈黙の後、のどかはキョトンとうなずいた。
「あら。そー言えば乱馬、最初に、私のことはあかねちゃんに聞いてる、って言っ
てたわね」
「え、ええ、もう、おば様のことは目に見えるように詳細に乱馬に伝えてます、あ
たし」
エヘヘと笑いながら座ったあかねはチロッと不満げにらんまの方へ目をやった。ら
んまはドックンドックンする動悸をかろうじて手で抑えていた。
「・・・も、もーこれっきりにしよーな、あかね。心臓に悪いぜ、これは・・・」

「あ、乱子ちゃん」
乱馬の分もいっぱい食べてね、とまた湯豆腐をご馳走になったあかねたちがさて帰
ろうと玄関まで来た時、不意にのどかがらんまを呼び止めた。
「な、なあにぃ、おばさまぁ?」
あわててキャピッと笑うらんまの髪をのどかがソッと撫でた。
「ごめんね、乱子ちゃん。おば様ね、今まで・・・あなたが本当は乱馬なんじゃな
いか、って、ちょっと疑ってたの」
「!」
らんまとあかねはギクリとのどかを見つめた。のどかはニッコリ微笑んで見せた。
「でも、とんだ勘違いだったのね。あんな男らしい乱馬ととっても可愛くて女らし
い乱子ちゃんを間違えるなんてね」
「・・・お、おば様」
あかねは悲しげにのどかを見つめ、そしてうつむいて肩を震わすらんまへと目を向
けた。
(おふくろ・・・! 本当は、おれが、おれがっ・・・!)
もう耐えられない、そう思うや否やこぼれそうな涙をすら見せまいとギュッと拳を
握りしめたらんまは、バッと身を翻すなりそのままダッと駆け出したところがまだ
開けてなかった戸にベインと激突してそのまま目を回して気絶してしまった。
「ら、乱子ちゃん・・・!?」
「お、おば様、じゃあまたっ」
心配そうに声をかけるのどかに小さくペコッとおじぎしたあかねは、あわててらん
まを背負ってのどかの家を飛び出したのだった。

  エピローグ
「・・・」
らんまを背負ってあかねは1人寂しげにうつむきながら天道家へと歩いていた。不
意に背中のらんまがビクッビクッと動いた。
「・・・泣いてるの、乱馬?」
「ゴ、ゴミが目に入っただけでいっ」
しかし言葉とは裏腹にらんまの声はか細く震えていた。あかねはフッと息をついて
もうそれ以上は聞かなかった。
「・・・ねえ、乱子ちゃん?」
また少したった頃、不意にあかねが聞いた。ビクッとしたらんまはあわててグシッ
と鼻をすすってからわざと横柄に聞き返した。
「なっ、何だよ、あかねっ? いきなり?」
「・・・乱馬が出来ない分、せめて、あたしと乱子ちゃんで精一杯おば様を楽しま
せてあげようよ、ね?」
「!」
ピクッと動きを止めたらんまはやがてため息のような声でささやいた。
「・・・そうね、あかねちゃん」
あかねは優しくクスッと微笑んで、元気出しなさいよ、と言うようにらんまの腰を
ヨイショッと持ち上げ直したのだった。

【 あはのどかのあ 】終わる
前の投稿:#1299 小説>らんま「あはのどかのあ」1 SAMWYN
この投稿:#1300 小説>らんま「あはのどかのあ」2 SAMWYN
次の投稿:#1301 BD大会>祝!BD10周年      だう

フォーラム過去ログ一覧へ戻る

Copyright © 1993-2005. SIG るーみっくわーるど
このページにある投稿文章は、各投稿者に著作権があります。
このサイトで公開されている全ての文章・画像などを許可なく転載することを禁じます。