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#1401/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (JUB08129) 94/ 1/30 1: 8 ( 73) 感想>人魚シリーズ/最後の顔 パイハン ★内容 人魚シリーズ最新作「最後の顔」を読みましたので感想を。 今回の話のキーポイントとなっている「顔の付け変え」。これは変身願望という よりは生まれ変わり願望を意味しているのでしょうか。 二つの顔を持つ七生の母親、付け変えた新しい顔は本来の顔と比べると留美子先 生の描くキャラクターとしても最高レベルの優しい顔の人物だと思います。その人 が真魚や湧太に刃を向ける姿はそれだけで大変ショックなのですが本来の顔との印 象の大きな違いにも驚かされます。 新しい顔では冷酷なシーンでも顔は全く冷酷なイメージはないのですがそれに対 しこの本来の顔のときは本当に冷酷な顔をします。でも昔の顔で実の息子、成長し た七生に合うときの彼女の顔は新しい顔同様にこれ以上は無いというくらいの優し い母親の顔をしているんですよね。 でもその息子、自分が勝手に七生と名付けた子供が奪われそうになるや否や崖か ら月落とすシーンは非常に印象的です。子供に対する愛が暴走しているにしても付 き落とした相手が実の息子であると知っていることを考え合わせると尋常な行為で はありません。これはやはり子供を一つの人格としてでなく自分の所有物としてし か見ることの出来無くなった母親の悲劇とでも言うのでしょうか。 実の息子七生に毒をのませた母親。しかし自分も息子も死ぬことが出来ずに自分 の顔にはおどろおどろしい跡が残ってしまった。最愛の息子からもらった鏡に写っ た己の醜い姿を見たときの彼女のショックは我が子を私物のように扱った報いなの かも知れませんがその愚かな行為を再び繰り返してしまうというのは最後の彼女の 「私は…そんなに強くない…」というセリフにに通じているんでしょうね。 今回の話の中で疑問になるのは少年七生の本当の母親が登場しないことでしょう ね。大人になった方の七生も社長の後妻に連れていかれたという割には身なりが粗 末です。乗っていた車も高い車じゃないし…(SUNNYに乗っている方がいたらごめん なさい!)このあたりに二人の七生の隠れた物語を感じてしまいます。 そう言えば老婆が一人でてきますけれども彼女は「おかあさん」の母親であろう と思うのですがその母親に「恐ろしい女」と言われるあたりに母親の愛とはなんだ ろうと考えさせられますね。 最後に己の本来の顔を見つめる少年七生に対して彼女は「悪い女の人の顔…」と 言います。自分の愚かな過去から逃れたい、自ら生まれ変わっつもりになって新し い七生と幸せに暮らしたいという彼女の願いにはやはり無理があったのでしょう。 結局は再び愚かな行為を繰り返そうとします。 しかし今回は前のとは違って七生本人が人魚の肉を食べようとしています。この あたりに前の七生以上に深い愛でつながっていたのだなと感じさせられますが、今 回の人魚の肉を食べさせようという行為は一人になりたくない、七生にも不老不死 になってもらって一緒に生きて欲しいという考えによるものだと思いますので結局 のところ利己的で前進がないあたりが人間の悲しさと言ったところでしょうか。再 び人魚の肉を食べさせようとしたら新しい顔にも古い顔と同じ様な醜いものが出て くるあたりに我が子の私物化に対する天罰としての意味合いを感じます。 「最後の顔」という今回のタイトル。結局彼女は本来の顔ではない、新しい優し い顔で死んだ訳ですがこれが本当ではない「嘘の顔」とは言えないでしょうね。こ れも彼女の本当の優しい母親の顔であることは確かですし彼女の望んでいた顔だと 思います。 実の息子七生に鏡を返しそして少年七生も返すと言った「おかあさん」が死を選 ぶ行為は二人の七生の幸せを考えた上の最良の行為だったのでしょうか?少なくと もこのまま生き続けたのでは再び我が子を私物のように扱ってしまうと確信せざる をえなかったんでしょうね。これもまた愛…ですか。 子供に対する愛が強すぎるがゆえに起きた悲劇。今回の人魚も犯人を単純には責 めることの出来ない、人間であるがゆえの悲劇を描いた傑作であったと思います。 P.S.しかし二人の七生はこれからも七生と名のっていっしょに暮らすんでしょ うかねえ? ではまた。 JUB08129:パイハン