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#1611/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 94/ 5/15 12:10 (175) 小説>らんま「TORA」2 altjin ★内容 3.3人目の使い手 「・・・あの若者、パイホーはその男の孫じゃ、おそらくは。顔がよう似とるから の」 コロンが思い出すようにつぶやいた。 「あれはまだわしがうら若き乙女じゃった頃じゃ。わしには姉2人がいて、3人と も飛竜昇天破を会得し、さらに研鑚しつつあった頃じゃ。我が女傑族の村に、花嫁 を求めに1人の男が来た・・・」 「も、もしかして八宝斉のおじいさん?」 ゲッと聞くあかねにシャンプーもウンウンうなずいて2人でコロンを見つめた。し かし、コロンは首を横に振った。 「いや、それより数年前の話じゃ。何でもその男、ジャコウ王朝とかいう男だけの 国から来たという。そのためか女との付き合い方を知らず、呼び止めるのに岩を投 げ、抱かれてやればそのまま抱きつぶす始末・・・ん、どうした?」 あかねが「あ」という顔をしたので、コロンがいぶかしげに聞いた。あかねは冷や 汗をタラッと流して視線をそらしながらポリポリ頬を掻いた。 「あ゛、いえ、ちょ、ちょっと、似た人がいるなあ、って、あはは」 「まあ、とにかく!」 コロンはフンと座り直して続けた。 「もちろん、たちまち女たちからは敬遠された。じゃがそれでもしつこく迫って来 るのでこのわしが飛竜昇天破で吹き飛ばしてやったのじゃ。『覚えておれ! この 礼はいつか必ず返すぞっ!』と言い残してその男は去って行った・・・」 「なかなか律義な人あるね? 吹き飛ばされて礼したいあるか」 「シャンプ〜」 あかねがジトッとシャンプーをにらんだ。シャンプーはムスッとにらみ返した。 「この程度の冗談本気にするでない! バカだと思われるぞ、あかね!」 「あんったにだけは言われたくないわっ、そのセリフ!」 プイッとそっぽを向くあかねに、コロンがボソッと聞いた。 「おぬしら、いつの間に仲が良くなったのじゃ?」 「で、その翌年にまた来た」 コロンは続けた。 「牽牛みたいな人あるね?」 ヒクッとこらえるあかねに、シャンプーは「?」という顔で振り向いた。 「そこで初めてわしはあの技、竜王制竜覇を不覚にも食らってしまったのじゃ。幸 いまだ技は未完成じゃったために相打ちで済んだが、もしその時倒されていたらわ しはジャコウ王朝の囚われの美姫となっとったことじゃろうて!」 カッカと笑うコロンに、あかねとシャンプーはゾクッと顔を見合わせるばかりだっ た。笑い止んでからコロンはまた続けた。 「さあ、そうなるとわしらもうかうかしておれん。じゃが、いろいろと調べかつ試 した結果、その男が放ったような強烈な冷気は女に対する想像を絶する深い恨みに よるものであり、とてもではないがわしらにはそれを上回る冷気を放つことは不可 能であることがわかっただけじゃった」 「乱馬でも・・・不可能なのかしら?」 いかにも不安げにあかねが視線をそらしてうつむいた。コロンは残念そうにウム、 とうなずいて見せた。 「そう、婿殿でも無理じゃ・・・『1人だけ』ではの!」 「!」 シャンプーもあかねもハッと顔を上げた。いよいよ問題の核心に来たのだ。コロン は2人の期待に満ちた顔各々にうなずいて見せた。 「さよう、要は圧力の差の問題じゃ。冷気ではかなわなくとも、相手の出す冷気は あくまで1人分、それを上回る圧力で飛竜昇天破を打ち放てば、それは冷気の壁を 突き破って飛び出すことになる」 「じゃあ、勝てるのねっ、あたしたち! あの男に!」 あかねが嬉しそうに身を乗り出してコロンの手をギュッと握ったが、コロンは悲し げに首を振ってその手を振りほどくばかりだった。 「・・・足りんのじゃ。1人足りん。パイホーの出した冷気からどう計算しても最 低3人は必要なのじゃ!」 「3・・・人!」 コロンと乱馬、そしてもう1人。すかさずシャンプーがバッと手を上げながら立ち 上がった。 「私に教えて、ひいばあちゃん! 私、乱馬を助けるためならどんな苦難も平気あ る!」 「あっ、あたしもっ! 4人いれば完璧でしょっ!」 あかねもあわてて立ち上がったが、コロンはあかねには「座れ」と手を振っただけ だった。 「おぬしは性格的に無理じゃ。気が短すぎるわい」 「ん〜・・・」 何も言い返せないあかねはブスッとした顔で不満気に座るしかなかった。コロンは シャンプーへと目を向けた。 「おぬしもかなりつらいのう・・・。人並みに会得するためには、常人の数倍の努 力が必要じゃぞ、まだおぬしの力量では?」 「他にいないねっ? やるしかないあるっ!」 シャンプーはやる気満々でうなずいて見せた。その時、不意にあかねがピンと人差 し指を立てた。 「そうよ! おばあさんのお姉さんたちの孫がいるじゃない! 急いで来てもらえ ばシャンプーが会得するより早く乱馬を助け出せるわっ!」 「・・・私じゃどうしても不満か、あかね?」 シャンプーはヒクッと頬を引きつらせてあかねを横目でにらみつけた。あかねは力 強くうなずいて見せた。しかし、またもコロンはいかにもすまなげに首を横に振っ たのだった。 「おらん・・・。姉たちは子を作ることもなく、『永遠に生きる邪悪』の撃退に若 き花を散らしてしもうた・・・。今はもう伝承者はわしと婿殿しかおらんのじゃ」 「正式な伝承者は、な」 その声にあかねたちはギクッと振り向いた。入り口のところにハーブとその従者ミ ントが立っていた。 4.乱馬救出作戦 「私のところのパイホー将軍が迷惑をかけてしまったようだな。将軍に代わって私 が謝っておく。あの男は根はいい奴なんだが、家の教育で女を徹底的に憎むように 仕込まれてしまったのだ。今でも雌虎を妻にする唯一の家なぐらいだからな」 シャンプーとあかねがあわてて2人に席を譲り、ハーブは旅装束を解きながらコロ ンから詳細を聞き、いかにも王族的傲慢さで謝った。 「ま、まあまあ、乱馬のために我慢! ね、あかね」 ハーブの後ろでグッと握る拳を振り上げたあかねの腕をあわててシャンプーが引き 止めた。 「そうだ、我が国では対飛竜昇天破のために王族に限り飛竜昇天破が伝えられてい る。女の技を使うことは恥なので自らは使わんが、まあしかし他ならぬ乱馬のため だ。あえて今回に限り使っても良いぞ?」 もう完全に頭に来てヘッドロックをかけようとしたあかねをシャンプーが苦笑いし ながら必死に止めている情景を不思議そうにハーブは振り向いて眺めた。コロンは 深く礼をした。 「潔い決断、成長なさったのう、ジャコウの国の王よ。その好意、喜んで使わさせ てもらいますわい」 「とにかく、婿殿を助け出さねば本当に数が揃ったことにはならん」 すでに夜も更けて来ていた。あかねは家に電話して、下手に騒がれると困るので、 今夜は乱馬と猫飯店に泊まるから、と理由もろくに告げずに電話を切り、あかねが 戻って来るのに合わせてコロンが口を切った。 「かと言って、パイホー将軍に婿殿が本当の早乙女乱馬だと知られてもマズい」 「誰かを代役に仕立てるしかあるまい?」 さすがにハーブはその手のことには詳しく、考えるまでもないと言う顔で言った。 「やはりそれしかないかのう・・・。わしとハーブ殿は無論ダメ、シャンプーもす でに名前を・・・」 「あたししかいないじゃない!」 ハーブの後ろに腕を組んで立つあかねがムスッと言った。振り向いて値踏みするよ うにジッと見つめるハーブ越しに、コロンがあかねを心配そうに見つめた。 「危険な役じゃ・・・。死ぬかも知れんのじゃぞ?」 「だから他にいないっつってんでしょ! やりたいとか、やりたくないとかの問題 じゃないじゃない!」 あかねはそれがどーしたのよ、という顔でコロンをにらみつけた。ハーブが少し賛 嘆するようにホォとうなった。 「女にしては潔いな、お前は? 名前を聞いておこう」 「て・ん・ど・う・あ・か・ねよっ! 天は天国の天、道は道路の道、一体何聞い てたのよっ、あんたはっ、王様だからっていい気になってんじゃないわよっ!」 爆発しかけたあかねの怒りをあわててシャンプーがドードーとなだめた。 「あかねっ、その怒りはすべてあの男にぶつけるよろし!」 「天道あかねがおとりになり、その隙にシャンプーとミントが婿殿を助け出す。そ れを待ってわしとハーブ殿で飛竜昇天破をかけ始め、途中で婿殿とも合流して、そ の間にシャンプー・ミント・天道あかねは離脱、そして打つ。これで良いの、ハー ブ殿?」 コロンはまとめあげた作戦を改めてハーブに確認した。ハーブも今は満足げにうな ずいた。 「おそらくそれが最良の作戦だろうな。将軍の祖父は女傑族の村で何があったかは 黙して語らず、ただ『女討つべし!』と言い残して死んだと聞く。おそらく、将軍 も竜王制竜覇が数人掛かりの飛竜昇天破には負けてしまうことは知るまい、何しろ 私にもそれは初耳だったからな。それからミント、今のうちに言っておくが、くれ ぐれもチチには気を取られるなよ?」 「やっ・・・ヤダな〜、わかってますよォ〜、ハーブ様っ!」 不意を突かれて、ミントはエヘヘと笑いながらどうにか答えた。 「じゃあ、さっそく作戦開始ね!」 あかねがやってやるから! というように手のひらに拳をパチンと当てながらニッ と笑った。しかし、またもやコロンにすかされてしまった。 「そう急ぐでない、天道あかね。婿殿の受けたダメージは相当なもののはず、飛竜 昇天破を打てるほど回復するのを待たねばならん。それに、わしらも十分に英気を 養って当たらねばならぬ相手じゃ」 「そっ、そんな! もし待ってる間に乱馬の正体がバレたらどーすんのよっ!?」 いかにもせわしなげにあかねは小刻みに足踏みしながらコロンに訴えた。コロンは それにはうなずいて見せた。 「もちろんそれもあるから、あまり遅れるのはマズい。今宵一晩ぐらいなら我慢出 来るじゃろう、天道あかね? 決行は明日の朝、それも人通りは少ない方が良いか ら夜明けと同時に向こうに着くようにせねばなるまい」 「それが良いな。寝るべき時に寝れるのも優れた武道家たる条件の1つだぞ、天道 あかね」 ハーブがあかねの頭をポンと叩きながら立ち上がって、2階へ用意された寝室へと そのままミントとともに去って行った。 「知ってるわよっ、それぐらい!」 あかねはもうじきに乱馬を助けに行ける嬉しさと、相変わらず慣れることが出来な いハーブの無神経さによる怒りのないまぜになった顔でそれを見送ったのだった。 「・・・ったく、朝練なんてタルいったりゃありゃしねえぜ」 この時期の朝はまだいくらか寒い(と思う)。竹刀と道着入れを背負った風林館の 生徒らしき少年が自販機でジュースを買いながらボヤいていたその時、不意に道の 向こう、朝もやを透かして数人の人影がこちらへ歩いて来るのが見えた。 「よおっ、おめえらもジュース買い・・・でえっ!?」 同じ部員たちと思ったのか、親しげに声をかけようとした少年はビクッと後ずさっ てしまった。制服の上に『乱』の字を大きく縫い付けた革鎧をまとう天道あかねを 先頭に、大刀を肩に担ぐミント、同じく重り付き棍棒を肩に担ぐシャンプー、竜の うろこのようなマントを翻すハーブが、厳しい表情で重く押し黙ったまま、少年に は目もくれず、ザッ、ザッと少年の目の前を通り過ぎて行ったのである。その重い 行軍を見送りながら、少年はあごにたれる汗を拭ってうめいた。 「いっ・・・一体何やらかす気だ、天道あかね・・・はうっ!?」 「どけい、邪魔じゃ」 そしてダメ押しに、コロンが少年の頭を杖でズコッと踏み越えてそのままピョ〜ン ピョ〜ンと飛び去って行ったのだった。