SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
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投稿日時:1994/ 5/15 12:12 投稿者ID:QKM33822
#1612/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 5/15  12:12  (165)
小説>らんま「TORA」3 altjin
★内容
  5.不敵な男
 そこはまさに決闘にうってつけの空き地だった。すでに朝もやは晴れかかり、あ
かねたちはなぜかそこにあった大きな岩陰に身を寄せて様子をうかがった。
「・・・! まだ気絶したままよ、乱馬!」
その空き地の高み、草なびく丘の上にパイホーが腕を組んで静かに、しかし飛ぶ鳥
をもおびえて寄りつかなくさせるような『迫』を草原いっぱいに漂わせつつ立って
いた。その足元に縛られもせずに乱馬が寝かされていた。あかねの焦るようなささ
やきに、コロンもその横について乱馬の様子をうかがいながらあごをなでた。
「ふ〜む・・・。やはりそれを用意しておいて良かったのう」
あかねは腰に下げた水入りビニール袋を確認するようにコロンに持ち上げて見せな
がら、確かに、とうなずいた。
「でも、もし・・・これでも目覚めなかったら・・・?」
「その時はお前たちは乱馬を連れて逃げろ。私が将軍を食い止める」
まわりの地勢を調べながら、ハーブがポンと手だけであかねの肩を叩いた。不意に
何か思いついたようにあかねが振り向いてハーブを見上げたその時、コロンがあた
かもさえぎるように素早く後ろのシャンプーとミントに命じた。
「シャンプー、おぬしらは右から回れ。ちょうど良いところに林があるわ。あの中
に潜んで、天道あかねがパイホー将軍の気を引く隙に婿殿の元まで這い寄って近づ
くのじゃ」
「了解ね!」
「シャンプーさん、こちらから!」
力強くうなずいて見せたシャンプーとミントは後ろへとコッソリ身を隠しつつ飛び
出して行った。
「・・・」
2人の背中を見送ったあかねは、次はあたしの番ね! と、ゴクッと唾を飲み込み
ながらパイホーの方へ顔を戻した。

「・・・さあ!」
何かを感じたのか、目を閉じて瞑想状態に入ったパイホーの後方、林の木陰からミ
ントとシャンプーがコソッとうなずいて見せるのを見て、コロンはあかねをキッと
見上げた。あかねもうなずくようにコロンを見下ろした。
「将軍はおそらく挑発して来るじゃろう。じゃが絶対に乗ってはならぬ。おぬしの
目的は出来る限り長く将軍の気を引きつけておくこと、むしろ進んで卑怯な手を駆
使する覚悟で行くのじゃ」
「・・・わかってる!」
一瞬目を閉じたあかねは、決意に満ちたまなざしをパイホーへと向けながら力強く
うなずいて見せた。
「出来る限りゆっくり近づけよ? では、行くのじゃ!」
コロンは母が子を闘いへと送り出すかのように、力強い何かを込めてあかねの背中
をドンと叩いた。キュッと拳を握りしめてから、キュッと唇を噛みしめてから、あ
かねはダッと岩陰を飛び出した。
「パイホー!! あたしがあんたの捜してる早乙女乱馬よっ!!」
一瞬パイホーの眉がピクッと動いたが、パイホーはなお目を閉じたまま大声で答え
た。
「4人ぐらい連れて来たところで俺は倒せんぞ。もっとも、そいつらは貴様の骨を
拾いについて来たのだろうがな!」
「あんたの骨を、よ!」
そしてあかねはゆっくり最初の一歩を踏み出した。
「・・・さあ! 私は左で待とう。三つ巴の形で渦を引き起こした方が早く大きく
出来るだろうからな」
あかねの後ろ姿を見送りながらハーブが移動しようとしかけた時、コロンがふと確
認するように聞いた。
「おぬしでも・・・恐れる相手かのう?」
ピクッと立ち止まったハーブは、やがて背を向けたままボソッと答えた。
「将軍家は我ら王族の師範代の家柄だ。私の技はすべて知られてしまっている。お
そらく・・・『どちらか』が死ぬことになろう。許せ。私も将軍も、どちらも王国
には必要な人間なのだ」
「・・・あいわかった。王の思うように行かれよ」
コロンはホ〜ッとため息をついてから力強く言った。
「・・・すまぬな」
ハーブは、初めて心からすまなそうにつぶやいてから、ゆっくりと歩み去って行っ
た。

(パイホーの間合いはこの中だとハーブは言った・・・!)
あかねは、パイホーから6歩離れたところでピタッと立ち止まった。パイホーが感
心したように言った。
「ほお。俺の間合いが読めるか。貴様の気はそれほど強いとは思えんのにな」
「いっ、いつまでも眠ってんじゃないわよっ! それともあんたっ、五木ひろしな
わけっ!」
目を開けさせればそれだけ気が散るはず、あかねはそこから一歩も動かずに怒鳴っ
た。パイホーはクスッと笑って目を開けた。
「ずいぶんな余裕だな、早乙女乱馬? それとも、すでに命を捨てる覚悟で来たも
のか・・・。言っておくが、俺に目を開けさせて命拾いした奴はいないぞ。俺は闘
う相手を許すほど心は広くない」
「じゃ、じゃあ、あたしがその最初ってわけね! あ、あんたが土下座して謝るな
らあたしは許してやってもいーわよっ!」
パイホーの目は確かに心の臓を刺すような冷たさで光っていた。あかねが強がるの
は自分を勇気づけるためでもあったと言って良い。パイホーはフッと鼻で笑って見
せた。
「しかし、本当に信じられんな、ハーブ様がこんな奴に負けられたとは。だが、俺
は容赦はしないぞ! 獅子ならばその首を打ち砕き、蛙ならば踏みつぶす、それが
俺の流儀だっ!」
パイホーはマントをバッと広げ、あかねはクッと身構えた。

  6.あかねVSパイホー
(竜王拳が来る・・・! パイホーの動きに惑わされないこと!)
竜王拳、それはレールで運ぶように気弾を体の回りに巡らし、突きや蹴りと同時に
背後より飛び出した気弾が思いも寄らぬ方向から襲いかかって来る、1人はおろか
多人数を相手にしても威力の衰えぬ恐るべき拳だとハーブは言った。
(手や足ではなく前に出る肩と後ろに引く腰、そして首の動きを見よ、と! その
3点が交わる延長線に気弾が襲いかかって来るゆえ、恐れずにその中に飛び込め、
と!)
あかねはパイホーの圧倒的な気迫に後ろへ下がりたいのを必死にこらえて、逆にダ
ンッと後ろ足で地面を蹴って一気に前へ飛び出した。
「・・・チッ!」
パイホーは舌打ちすると、ズンッと足を地面にめり込ませて勢いを逆転させた。
(普通の拳へ戻すこの一瞬が竜王拳の弱点!)
「ハアッッ!!」
飛び込んだ前足から崩れるようにしゃがみ込んだあかねは、地面をこするように後
ろ足を引きずりながら、ハーブの指示通りに後先も考えず思い切り前足をのばして
飛び上がった。
「くっ・・・がはっ!?」
体の上下が逆になる、下からまっすぐ突き上げるあかねの前足にパイホーはあわて
て身を引いたが、続けざまに繰り出された鞭のようにしなやかに回転するあかねの
後ろ足がそのあごを捉えた。その痛撃をかろうじて後ろへ跳ぶことで逃すパイホー
と、両手を水平にのばしたまま空のスケートリンクをすべるかの如く宙返りするあ
かねは再び元の間合いへと戻ったのだった。
「きっ、貴様・・・! ま、まさかハーブ様と同じかわし方をしようとはっ!」
数歩後ろへ下がってから片膝をついたパイホーは、口元の血を拭いながら、ちょう
ど同じ様な格好で着地したあかねをギッとにらみつけた。
「なるほど、これが貴様の真の実力かっ! その抜けた面とヒラヒラした服で惑わ
されたが、俺は少し貴様を見くびり過ぎていたようだ!」
「や〜っとおわかりっ? でもこのあたし、早乙女乱馬の恐さを思い知るのはこれ
からよっ!!」
あかねはヘヘッと笑ってパイホーをキッとにらみ返した。パイホーはしかしニヤリ
と笑って立ち上がると、ハア〜ッ! と気合を込めて熱い闘気を放射した。
「そうか、フフフフ・・・。じゃあ、さっそく味あわさせてもらおうか、貴様のそ
の『恐さ』とやらを!」

(飛竜昇天破を誘っている・・・!)
熱く燃えるようなパイホーの突きは、しかしそれまでとは打って変わって、あかね
にもかわせるほど遅いものだった。であるにもかかわらず、それはあかねを意図的
に螺旋の動きへと誘導していた。
「フフフフフッ、さあっ、どうしたっ、乱馬っ!? ハーブ様を倒した様にこの俺
も倒してみろっ!」
「くっ・・・!」
あかねにはパイホーの誘導する螺旋の動きについていくのがやっとだった。もつれ
そうになる足を必死で踏み変えながら、あかねは行けるとこまで行くしかない!
とそれだけを一生懸命考えていた。
(この動きが出来なければあたしが乱馬でないことがバレてしまう・・・! それ
だけは避けなければ!)
「さあさあっ、どうしたっ!? もう一歩で中心だぞっ!」
パイホーは相変わらず不敵な笑いを浮かべながらその一歩を踏み出させる突きを繰
り出した。
「くっ・・・!」
(もうっ・・・やるしかないっ!)
あかねはそのまま、手と足を交差させるようにバッと屈み込んだ。
「飛竜っ・・・!」
「ふははははっ、早乙女乱馬敗れたりっ!! 食らえっ、竜王制竜覇っ!!」
「昇天キ〜ッッックッッ!!!」
パイホーはすかさずサッと両手をひろげた。ところが、あかねが突然手で体を支え
ながら強烈な後ろ蹴りを繰り出したのだからたまらない、その蹴りをまたもやあご
に食らってパイホーの後ろにのけぞるように飛ばされてしまった。
「なっ、何だとおおおっっっ!? ぐはああっっ!!」

「さすが私の宿命のライバルあかねねっ! 先の読めない恐ろしい攻防ある!」
ズリズリ匍匐前進してシャンプーたちは、ダッと駆け出せばすぐに乱馬を抱き上げ
られる距離まで近づいて来ていた。ミントも感心したようにあかねとパイホーの闘
いをチラッと見やった。
「あかねさんってそんなにお強いんですか?」
「いや、弱いある!」
シャンプーは即座に断言してのけた。タラッと汗を流しながら、え? という顔で
見つめるミントにシャンプーは今1度力強くうなずいて見せた。
「あまりに弱すぎて、それで強すぎるパイホーがペースを合わせられないね! わ
かるか、ミント? この深遠な道理が?」
「は・・・はあ。な、何となく・・・」
ミントは分かったような分からないような顔でうなずくのだった。と、その時、
「あっ・・・きゃあっっ!?」
シャンプーたちの場所から、あかねが石に足を取られたのか、つまずいて前のめり
に倒れるのが見えた。ミントがキッと真顔に戻ってシャンプーへ振り向いた。
「シャンプーさん!」
「行くねっ、ミントッ!」
シャンプーも素早くうなずいて見せると、すかさず立ち上がるミントの背中を緊迫
する闘いへダンッと押し出してやりながら、自分も立ち上がり様に乱馬の方へダッ
と駆け出した。
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