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#1613/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 94/ 5/15 12:15 (178) 小説>らんま「TORA」4 altjin ★内容 7.目覚めの一撃 「パイホー将軍っ!!」 倒れたあかねに立ち上がるヒマも与えず最後の一撃を振り下ろそうとしたパイホー はその声に手を下ろして振り向いた。 「・・・やはりお前か、ミント」 「ハーブ様が・・・来ています!」 ミントは手を背中の大刀にかけるべきかどうか迷いながら、とにかくパイホーを説 得しようとした。 「あなたの今回の行動を悲しんでおられます! せめて今1度考え直してもらえま せんかっ、将軍!?」 「・・・何を?」 パイホーの声は冷たかった。ミントは背中の大刀にサッと手をかけながらパイホー をグッとにらんだ。 「ど・・・どうしても『女』を認められませんかっ!? 同じ人間として!?」 「同じでないものを同じだと言えるか、お前は? それとも女は男と『まったく同 じ』だと信じ込むのか、自分が『ナポレオン』だと信じ込む狂人のように?」 パイホーの父親の顔が見てみたいものである、まあそれはともかく、まだ幼いミン トはウッと詰まってしまった。 「ぼ・・・僕たちも『まったく同じ』とまでは・・・で、でもっ!」 「ジャコウ王朝は『究極の強さ』が存在理由であり、そこにおいて女の必要性は一 切ないのだっ!! 我が国の理念を忘れたかっ、ミントッ!!」 パイホーの一喝は、かつて弟子の1人であったミントの腹にズンと来た。しかし、 もうミントは昔のミントではない。 「そっ、それはっ、た、確かに・・・でも、でもっ・・・!」 「ゆえに『男を惑わし、強さから逸らす女は滅ぼされるべし』! 現に、お前やラ イムはおろか、ハーブ様でさえ早乙女乱馬という『女』に惑わされたではないか! ジャコウ王朝を、その理念を守ることこそ将軍たる俺の務め、ゆえに俺は早乙女乱 馬を倒さねばならぬ! ハーブ様が見ておられるのならなおさらのことだ!」 「りっ・・・理屈1つで殺されてたまりますかっ!!」 その時、あかねが荒い息をゼイゼイ言わせながらようやく立ち上がってパイホーの 背中に怒鳴った。パイホーは冷酷な表情で振り向いた。 「さて、とんだ邪魔が入ったが、その『理屈1つ』で男は女を殺せるのだと今ここ で証明してやろう。それはまた、『男は女より強い』ことの証明でもある。それに よってハーブ様も目を覚ましてくださろう。では死ねっ、早乙女乱馬っ!!」 「くっ・・・!」 ブンッと迫り来るパイホーの強烈な拳に、しかしヨロッとよろめいてしまったあか ねはバッと両手を交差させて頭を守るので精一杯だった。 「くっ・・・将軍っ!! お覚悟っ!!」 一瞬のためらいをグッと大刀の柄を握りしめて払ったミントは、その大刀をシャッ と抜き放ちながらパイホーの背中にダッと飛びかかった。 「乱馬っ! 目を覚ますよろしっ! 乱馬っ、乱馬っ!!」 気絶している乱馬をグッと抱き上げながらシャンプーはコッソリ、しかし十分な強 さで乱馬の頬をベチベチ叩いた。しかし、乱馬はグテッとしたままだった。コソッ と闘いの様子をうかがったシャンプーは、スウッと息を吸い込むと、そのパワーす べてを手のひらへ集中させてズベベベベベベと乱馬の頬を連打した。 「なっ・・・! ま、まだ目覚めないある・・・!?」 それでも乱馬はグテッとしたままで、シャンプーはやはり大声で名前を呼びながら でないとダメか? ともう藁にもすがる思いで何かないかと焦りまくる顔でキョロ キョロ見回した。 「・・・!」 その時、不意にミントとともにパイホーと闘うあかねの腰の水袋がシャンプーの目 を捉えた。しばし手を振ってうろたえまくったシャンプーはもはやこれまで、と大 声で叫んだ。 「あかねっ!! 来るよろしっ!! らっ・・・乱馬が目覚めないあるよっ!!」 「なっ・・・!?」 この瞬間にすべてが変わった。パイホーは愕然とシャンプーの方に振り向き、ミン トは呆然とシャンプーを見つめた。ハーブはチッ! と舌打ちし、コロンは大きく ため息をついて頭を振った。ただあかねだけはその意味を一瞬の間に理解すると、 パイホーを出し抜く速さでダッと駆け出していた。 「走ってっ、シャンプーッ!! 乱馬を背負って走ってっ!!」 「ハーブ殿っ!!」 コロンもまた次にするべき行動をすぐに認識してハーブへと呼びかけ、ハーブがう なずくのを確認してからダッと飛び出した。 「天道あかねっ、シャンプー! 左巻きの螺旋だっ、左巻きに回れっ!!」 ハーブも駆け出しながら必要な手を次々に打っていった。 「ミントッ、将軍を食い止めろっ! 乱馬が目覚めるまでっ!」 「だっ・・・だましたなあ〜っ!! あいつが本当の早乙女乱馬だとぉ〜っ!?」 パイホーの怒りは燃え上がる炎のごとく、クッと一瞬ためらったミントはしかしズ イッと動き出したパイホーにたちまち跳ね飛ばされてしまった。 「どけっ、邪魔だっ!! 卑怯千万な手なぞ使いおってっ!! 殺すなどなまぬる いっ、この世から消滅させてやるっ、早乙女乱馬っ!!」 「しょっ、将軍っ!!」 ミントはあわてて立ち上がって、グイグイ速度を上げるパイホーを追い始めた。 「あかね、お前が背負うねっ!」 一応乱馬を背負って駆け出したシャンプーは、追いついて腰の袋を手に取るあかね に困ったような情けないような顔で訴えた。あかねは手を止めて唖然とシャンプー の顔を見つめた。 「え・・・? な、何言ってんのよっ、こんな時にっ!?」 「だって・・・にゃ〜ん?」 シャンプーは申し訳ないっ! とでも言うかのように猫の鳴きまねをした。ハッと それに気づいたあかねはガックリ頭を手で押さえて首を振った。 「もうっ・・・わかったわっ! とにかく急いでっ、シャンプー!」 あかねは駆けながら前に出て腕を下から回して待った。シャンプーは乱馬の腕を背 負い投げるように引っ張ってそのままトウッと放り投げた。 「受け取るねっ、あかねっ!!」 「はいっ・・・ととっ! よしっ、受け取ったわっ! 早くっ、腰の袋を乱馬の頭 に叩きつけてっ、シャンプーッ!」 ちょっと落としかけたがかろうじて背中に乱馬を押しつけたあかねは前に見えて来 たハーブと後ろから迫り来るパイホーを交互に見ながらとにかくシャンプーを急か した。シャンプーはあかねの腰の水袋をバッとひったくるように取ると、フンッと 気を集中してからそれをバッと振り上げた。 「目覚めるよろし、目覚めるよろし乱馬、南無・・・ハイッッ!!」 ありったけの気を込めて振り下ろされた水袋は乱馬の頭にズダベシャッと当たって はじけた。 8.3人+1人寄れば 「な゛っ、いって・・・くないなあ〜、あれ?」 その、恐怖の武器ブラックジャックにも匹敵するインパクトはあかねの背中にもズ ンッと響いた。飛び散る水の冷たさにヒアッと思わず首をすくめたあかねの背中か ら、悲鳴を上げかけてからおどけたようにキョトンとするなぜかとても懐かしい声 が聞こえた。 「乱馬っ・・・! 目が覚めたのねっ、乱馬っ!!」 「ちょっと・・・何だよ、これ? 何で走ってんだ、おれたち・・・?」 こぼれんばかりの笑顔で嬉しげに振り向くあかねに、しかしまだ状況のつかめてい ないらんまはいぶかしげにその顔をにらむばかりだった。 「後ろの男を見ろ、乱馬」 そこへ、やや速度を落としてあかねの横に並んだハーブが割り込んで来た。 「あれ〜! ハーブじゃんか、なっつかし〜な〜! 他の奴らも元気かぁ?」 「いっ・・・いいから後ろの男を見ろっ、乱馬!」 こののんびり娘はっ、と手を当てた頭を振りながらハーブは今1度、今度は命令す るように言った。らんまはん? と振り向いた。 「ん? よぉ、シャンプー。ん、男?」 「ニーハオ、愛人」 ニパッと笑って手を振ったシャンプーはヒョイと頭をよけた。らんまはビクッとす ると、みるみる真剣な表情に戻っていった。 「・・・思い出した! あいつ・・・!」 「パイホー将軍、私の部下だ」 すかさずハーブが言い足した。次の瞬間、らんまの拳がドゴッとハーブの頭に振り 下ろされていた。 「何だとぉ〜っ? おめーの差し金かっ、まだ懲りてねーのかっ、このやろっ!」 「やめんか、婿殿!」 そこへ、これはモメそうじゃわいと機先を制して寄って来たコロンがらんまの出っ 張っている肘を杖でスコンと叩いた。 「だ〜っ、いてっ! あにすんだよっ、ばーさんっ!?」 「詳しい事情は後で話す! あの男にかけられた技は覚えておろう?」 再びらんまはそう言えば、と真剣な表情に戻って後ろから追って来ているパイホー をキッとにらみつけた。 「もちろんだぜ! あんにゃろ〜、妙な技使いやがって! でも・・・」 「そうじゃ、あ奴の技に勝つには3人掛かりで飛竜昇天破を打たねばならん。わし と、ハーブ殿と、そして婿殿と、でじゃ」 「・・・なるほど! そーかっ、今は螺旋ステップへ入るとこだな!?」 ようやくらんまは必要最低限の事情を把握した。ホッと息をついたハーブが下のあ かねを見ながら言った。 「そういうわけだ。で、走れるか、乱馬、お前は?」 「ああっ、当たり前だろっ、ハーブ! さあ、下ろせよ、あかね!」 らんまは自信満々に言った。あかねも、本当に肩の荷が下りるような安心感を味わ いながら、手をパッと離した。 「はい、いーわよ、乱馬!」 「よしっ・・・う゛」 しかし、しばしあかねの背中で右に左にプルプル体を振っていたらんまはやがて情 けない声でボソッと言った。 「ダメだ・・・動かねーや、おれの足・・・」 「・・・え゛?」 あかねとハーブはゲ? という顔ですまなげに見つめ返すらんまを凝視したが、コ ロンだけは納得するようにうなずいた。 「やはり足に来ておるの。わしが昔あの技をかけられた時もやはりそうじゃったわ い。一週間は杖にすがって歩いたわ」 カッカッカと笑うコロンをあかねはデ〜という顔でにらんだ。 「笑ってる場合じゃないわっ! 一体どーすんのっ、おばあさんっ!?」 「おぬしが背負っていくしかあるまい?」 どアッサリ答えるコロンにあかねとらんまはゲ? と顔を見合わせた。 「途中までならおぬしでも平気じゃ。先程の動き、なかなかのものじゃったぞ?」 ニヤッと笑うコロンにあかねは困りながらも、ちょっと嬉しそうに笑った。 「え〜、でもぉ・・・そお?」 「ダッ、ダメだよっ! こんな不器用さの化身みてーな女があんな複雑なステップ 出来るわけねーだろっ!」 あわててらんまが止めさせようとしたが、皮肉にもそれが逆にあかねをやる気にさ せてしまった。 「何よ〜!? あたしちゃんと出来たんだからっ! 見もしないで適当なこと言わ ないでよねっ!!」 「わしらでサポートするから安心して任せい、婿殿。ただし、途中までじゃぞ? 技をかける前にシャンプーらとともに脱出してもらうからの?」 ウンッと力強くうなずくあかねに、今はらんまも仕方なくしぶしぶ承知した。 「まあ、ばーさんがそこまでゆーなら・・・あかねっ! おれのゆー通りちゃんと 動けよなっ? 自分で自分の足踏むよーなおマヌケすんじゃねーぞっ?」 「任せてよっ、乱馬っ!」 あかねはニマッと微笑んで見せた。コロンは後ろのシャンプーに振り向いた。 「おぬしはミントとともにパイホー将軍の動きを牽制せい。わしが合図したら天道 あかねも連れて出来る限り遠くへ離れよ」 「了解ねっ、ひいばあちゃん!」 シャンプーはピッと敬礼して見せると、速度を落としつつ背中から重り付き棍棒を クルクル回しながら取り出して先頭グループから離脱していった。コロンはハーブ とうなずき合うと、あかねをも巻き込んでクルッと身を回した。 「さあっ、では行くぞっ! これからは決して気を抜いてはならぬぞっ!!」