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#1614/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 94/ 5/15 12:18 (181) 小説>らんま「TORA」5 altjin ★内容 9.男たちの闘い 「雑魚は除けっ!! さもなくば殺すっ!!」 急迫するパイホーの勢いはすさまじいものだったが、シャンプーは臆することなく バッとバク転で飛び上がるとすかさず飛び蹴りを繰り出した。 「はいっ!!」 「将軍っ、覚悟っ!!」 一瞬動きの止まったパイホーに追いつき様にミントも大刀をスシャッと冷たく光ら せてその背中へ袈裟切りに振り下ろした。 「ちょろいわっ!!」 しかし、パイホーはシャンプーの蹴りを左の小手に巻く革鎧で、ミントの切りを右 の同じく革鎧の鋲に引っ掛けていとも簡単に防いでしまった。 「ハアッッ!!」 「あいやあっ!?」 「ああっ!?」 パイホーの腕のひねりだけで、2人はそのまま水車に巻き込まれるように前に後ろ に投げ飛ばされた。かろうじて転がるように受け身を取ってダメージは避けたもの の、パイホーの足を止めることはもはや不可能だった。 「くっ・・・!」 前に飛ばされたミントはバッと顔を上げると、すかさず迫り来るパイホーの前に大 刀をかざしながら転がり出た。 「下がれっ、ミントッ!」 不意に、後ろからハーブの声がした。 「ハーブ様・・・!」 心配そうに見上げるミントを押しのけてハーブが前に出た。パイホーも今は足を止 めてまっすぐハーブの目を見つめ返した。2人はしばし沈黙のうちに立ち尽くして いた。 「・・・お前が1度決めた決心をたやすく変えるような男でないことは私は知って いる」 やがて、ハーブが口を開いた。 「だから、私も1度だけ聞く。どうあっても早乙女乱馬を倒すか?」 「・・・『知って』おられるのなら、なぜ聞かれる?」 パイホーはそう答えただけだった。ハーブは少し寂しげにフッと笑った。 「・・・そうか。では、私が乱馬とともに飛竜昇天破を打ったなら、お前は竜王制 竜覇をかけるのをためらうか?」 「我が人生最大の竜王制竜覇で見事、ハーブ様の『女』を追い出して見せましょう ぞ。2度と女の拳を使えぬように」 パイホーのその力強い答えに、ハーブは得心したように微笑んだ。 「それでこそ我がジャコウ王朝の武を司る将軍だ。では、心してかかるが良い」 「御意に」 それからハーブはクルッと身を翻すと、らんまたちの方へと戻りながらミントへ命 じた。 「お前とシャンプーは将軍の後ろにつけ。将軍が危険な拳を使おうとした場合のみ 牽制せよ。天道あかねを守らねばならぬ」 「・・・はいっ!」 ミントも、そのハーブの静かな表情の後ろに潜むだろう苦悩を思いやって、今はた だ素直に力強くうなずいて見せたのだった。 「・・・何か、こう改まった感じで飛竜昇天破をやる、ってのも変な感じだな?」 あかねに背負われたらんまがこの儀式のようないきさつを眺めながらボソッとつぶ やいた。 「しっ! 男の勝負は礼に始まり礼に終わるものだ、ってうちのお父さんが昔教え てくれたわ。憎しみ抜きの勝負だからこそ、自らの非を正し相手の義を受け入れら れるんだ、って」 叱るように黙らすあかねに、らんまはん〜と考えながら言い足した。 「でも、おれと親父の勝負は食に始まり食に終わってたぜ? この場合何抜きの勝 負になるんだ、あかね?」 「知らないわよっ、んなことっ」 あかねは呆れたような顔でムスッと前を向いてしまった。らんまが仕方なく1人で それを考えようとした時、ハーブが戻って来た。 「・・・ハアアッ!」 静かに目を閉じて祈るように手を合わせたパイホーは、心を整えると気合とともに 両肘をグイッと張って、たちまち強烈な闘気を全身から放射させた。 「ま・・・、まるで人間ストーブね」 ミントとともに後ろでパイホーの動きを見守っていたシャンプーは、顔が火照るほ どの熱気に思わず腕でかばってしまった。ミントがハッとその袖を引いた。 「シャンプーさん! 将軍が・・・出ます!」 「では、行くぞおっっ!!」 パイホーは合わせていた両手をガバッと離すと、手のひらの上に燃える陽炎をつか み取るようにグッと拳を握りしめ、ギッとらんまたちへ威圧するような瞳を向けな がら気に沈む足をグイッと前へ進めた。さらに一歩、さらにもう一歩、その重戦車 のような重い動きはそのたび毎に空気を打つように加速し、ついには突進するサイ の勢いでらんまたちへと急迫した。 「ぬおおおおっっ!!」 「あれは流さねばならぬ! ハーブ殿は左腕を、わしは右腕を流すゆえ、天道あか ねは必ず来る蹴りをただひたすらによけよ! あの最初の一撃だけは絶対流さねば ならぬぞ!」 コロンとハーブがすかさずバッとあかねの前に出た。 「あかねっ! ひもねーかっ、ひもっ!」 あわててらんまがあかねにコソッとささやいた。今は手であかねにつかまっている ので、せめて受け流しだけでも自分が、と思ったのであろう。 「・・・ダメッ! もう時間がないわっ! あたしの腹押さえるぐらいは出来るで しょう、あんたの足っ!」 あかねはらんまの腕を深く自分の首元で交差させると、その太ももが自分の脇腹を キュッと締めるのを確認してかららんまの腰を支えていた自分の両手をバッと放し て構えた。 「シャンプーさん! とにかく、将軍の背中をかすめるように武器を振り回して下 さいっ!」 ミントがパイホーの後を追って走り出しながら、同じくとなりを走るシャンプーに 怒鳴った。 「竜王拳です、あれはっ!」 「了解ね! 背中から出る気弾はたき落とせば良いのだなっ!」 このミントの判断は正解だった。パイホーの凄絶なまでの気迫に、ハーブたちは前 面の攻撃をよけるので手一杯だったのだ。 10.女たちの闘い 「でええいっ!!」 らんまたちまで後2歩というところでパイホーは前足をクイッと内にひねるように かかとから地面に押し込んだ。たちまち爪先を支点に足はグッと回され、それをト リガーアクションに左の裏拳と右のナックル、そしてコザックダンスのごとき右足 の極めて重い蹴りが爆発した。 「くっ・・・!」 「ほおっ!」 「あいやあっ!」 「せいっ!」 ハーブはその正確無比な受けで、コロンは熟練した杖さばきでパイホーの攻撃をか ろうじてよけ、シャンプーとミントもパイホーの背中をヒュッと通り抜けかけた気 弾を弾き飛ばすことにどうにか成功した。しかし、ミントの大刀は少し欠けてしま い、軌道を反らされた気弾は1つは地面に大穴を開け1つは決闘前にあかねたちが 隠れていた岩を粉砕し、残る1つは空の彼方へ消えた。 「逆だっ、あかねっ! 後ろ足上げて突っ込むように体回せ!」 さて、狙うように繰り出された蹴りにあかねがあわてて前足を上げてよけようとし たのを、あわててらんまが耳を引っ張って変えさせた。パイホーの蹴りはまさにら んまの言う通り、あかねの前足をギリギリかすめて後ろ足のあった場所へむなしく 空を切った。らんまはそれがわかるより早く次の指示を出した。 「気ぃ抜くなっ! 出来るだけ足上げてジャンプだっ!」 「くっ!」 あわててあかねがジャンプした下を、来た時以上の速さでパイホーの鈎状に曲げら れた足がヒュッと戻っていった。 「手を出すなっ、シャンプー!」 その後は、まあ、まだ激しい攻防は続いているものの、言葉を出す余裕ぐらいは出 てきたようである。パイホーの真後ろにいたシャンプーは、前面との闘いに熱中し ているように見えるその背中に一撃を食らわせたくてたまらず、バッと重り付き棍 棒を振り上げたところがすかさずハーブに制止されてしまった。 「飛竜昇天破で竜王制竜覇を打ち破らねば将軍の頑なな心を変えさせることはでき ん! 天道あかねを連れ出す合図をするまでお前は何もするなっ!」 「それが賢明です、シャンプーさん。将軍は後ろにも目がありますから」 ミントも付け加えた。ムス〜ッとしていたシャンプーは手を下ろすと、やり場のな い不満をぶつけるようにミントに愚痴ったのだった。 「お前みたいな子供に何がわかるか! まあ、いいあるが、別に」 「もうそろそろじゃ、天道あかね!」 もう、かなり螺旋の中心近くまで来ていた。それにつれて闘いの場も徐々にせばま り、らんまがあかねに出す指示も増えて来て、今はもうほとんど動作1つ1つに細 かい指示を出さねばならない程になっていた。 「そーだっ、あかね! もういーからおめーは早く抜けろっ! おれはばーさんの 杖にすがらせてもらうからっ!」 もう限度かとコロンの言葉に、らんまもうなずくように言い足した。しかし、あか ねは頑として受け入れなかった。 「まだまだっ! もっと頑張れるわっ、あたし!」 「っておめーっ、ほらっ、バカッ、右引けっ、右っ!」 しかし、あかねは良くてもらんまの方が、あかねに気を取られて集中出来ないのが 本当のところである。それでハーブがボソッと言った。 「お前も『氷の心』になるか、さもなければ乱馬のために抜けろ。その有り様では 乱馬が精神集中出来ん」 「あ・・・」 あかねはその言葉にハッと凍りついてしまった。 「だ〜っ、バカッ、立ち止まるなっ、あかねっ! 何やってんだっ、おめーは!」 「あっ、ごっ、ごめん、乱馬!」 らんまの焦りまくる声にハッと我に返ったあかねもあわててまた動き出す、しかし その表情はそれまでの決意に満ちたものから、深く沈んだものへと変わっていた。 「・・・抜けてくれるの、天道あかね?」 今1度コロンが聞いた。あかねは何も答えずにパイホーの攻撃をかわしていたが、 そのキュッと噛みしめられた唇が何とも悔しげな目とともに『YES』と答えてい た。 「シャンプー! 天道あかねを頼むぞ!」 ウムとうなずいたコロンは大声でシャンプーを呼んだ。 「僕が牽制しますから、その隙にっ!」 振り向くシャンプーにミントは任せて下さい! という目で答えながら、パイホー の右側面へ回り込んだ。シャンプーも左側面へ回り込むと、妙にうまいよけ方でパ イホーの正面下に飛び込んだ。 「さあっ! あかねっ、私と来るよろしっ!」 差し出されるシャンプーの手をあかねはなお悔しげに見下ろすばかりだった。コロ ンとハーブは顔を見合わせると、コロンはらんまをバッと取り上げ、ハーブはあか ねの背中をダンッと押し出した。 「・・・! ・・・乱馬っ!!」 あわてて抱き止めるシャンプーの腕の中で、あかねはむりやり引き裂かれる恋人同 士のように振り向いてらんまをただ見つめた。シャンプーが一同から飛び離れるま さにその一瞬、らんまはまるでいつもするようにニコッと笑ってVサインを出して 見せた。あかねの緊張の糸はそれでプッツリと切れてしまった。 「よ・・・よしよし、よし」 ただ声もなくヒクッヒクッと泣きじゃくるあかねをゲッと焦る顔であやしながら、 シャンプーはひときわ高く遠く跳んだのだった。 「・・・おまえもやはり女の子だたね、天道あかね。忘れてたある・・・」 「お前も行けっ、ミント! あの2人を守れ!」 「はいっ!」 ハーブの命令一喝ミントもシャンプーを追うように戦列を飛び離れた。闘いはまさ に極限に近づいていた。