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#1615/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 94/ 5/15 12:20 (131) 小説>らんま「TORA」6 altjin ★内容 11.究極の強さ 「・・・!」 5跳びも離れたところでようやくシャンプーは立ち止まると、あかねを伏せさせな がら自分もあかねの上から守るように腕を回して伏せた。ハッと我に戻ったあかね はあわてて闘いの方へ顔を上げた。 「乱馬はっ!?」 「早く来るねっ、ミント!」 ミントも急いでシャンプーのとなりへ来て伏せた。この広い空き地の中央、闘いの 終着駅で、らんまが、コロンが、ハーブが身を屈めながら腕を上へ突き上げ、パイ ホーが網を投げるように手を3人の上にかざすのが見えた。いや、何も知らない通 行人がもしこの場面を目撃したらおそらくバカの集会かと思うだろうが、闘いとは えてしてそういうものなのである。本人たちが真剣ならばそれを笑う権利は誰にも ないのだ。 (・・・まさかっ!?) 絵のように凍りついたまま、一瞬すべてが静まり返った。あかねは最悪の可能性に ゾクッとする肩をバッと押さえながら、キュッと目を閉じてからまたその絵を凝視 した。 (勝ってっ! ・・・お願いっ、神様っ、乱馬を護ってっ!) その時不意に、あかねの目の前の枯れ葉がカサッと揺れた。と思うと、そのままス スッ、スススッと動き始めた。そしてたちまち、草がザザザッとなびき始め、ゴウ と風が巻き起こった。 「くっ・・・! 想像以上にデカいねっ! あかねっ、頭伏せるよろしっ! 小石 が飛んで来るあるっ!」 あわててシャンプーがあかねの頭を抱くように押さえ込みながら、重り付き棍棒の 柄をドスッと地面に突き立てた。 「ミントもしっかり私につかまるねっ! 飛ばされてしまうぞっ!」 ミントの方にも重り付き棍棒を突き立てて、シャンプーは2人を守るように抱きか かえながら今や猛烈な嵐と化す風に自分もあわてて顔を伏せた。轟く風の凄まじき 怒号と巻き上がる土吹雪にあたかも世界はスッポリと包み込まれてしまったかのよ うだった。 「・・・!」 どのくらいたったろうか、やがて風の音がフッと弱まった。あかねはハッとあわて て顔を上げた。 「乱馬っ!!」 闘いの絵は、グッタリするパイホーを腕に抱きかかえながららんまとコロンの元へ ハーブが戻って来るものに変わっていた。 「あっ・・・、やったっ、やったわっ、シャンプー!」 あかねは顔中の笑顔でもその喜びを表現し切れず、嬉し涙に詰まる声でどうにかそ れだけ叫びながらシャンプーに振り向いた。 「ま、乱馬なら当然のことね。私が婿に選んだ男ある」 あかねに先に喜ばれてしまったシャンプーはあえてムスッとした顔で言いながら、 あまりに激しい風に途中から真っ二つに折れて重りがどこかにふっ飛んでしまって いる(元)重り付き棍棒をズボッと引き抜いた。 「フッ・・・。俺もまだ『男』を極めてなかったようだな。『女』の拳に負けてし まうとは・・・!」 らんまたちの前に寝かされたパイホーはフッと目を開けると、苦しげにうめく中か ら自嘲するようにつぶやいた。ハーブが何か言おうとした刹那、らんまの平手がパ イホーの頬に、目を覚ませ! と言わんばかりに炸裂した。 「おめーっ!! ・・・おめー、男だ女だとかにこだわり過ぎて、大事なこと見逃 してる! おめーは1人で闘ったから負けて、おれたちはみんなで力を合わせたか ら勝ったんだっ! 男も女も関係ねーよっ!!」 「男とは・・・」 パイホーは苦しげにゴホッと咳をして続けた。 「そういうものだ、男とは。他人の当てにすれば、その他人に裏切られた時には自 分だけでなく仲間も守り切れなくなる。だから、『究極の強さ』は全世界を敵に回 しても勝てる強さでなくては、な・・・」 パイホーはまた咳き込んだ。 「女は弱い。そこまで到達する前に『自分』に負けてしまうから、だ。平然と自分 を偽り自分の弱さを幻想の強さで覆い隠す・・・。だが、それでは肝心な時に役に 立たんのだ。幻想の強さにひれふすほど敵は甘くはない・・・」 パイホーは再び咳き込んだ。らんまはうつむいて、パイホーの苦しそうに上下する 胸を見つめた。 「・・・確かに、そーかも知れねー。・・・確かに、女は男に比べたらグズでドジ でノロマでマヌケかも知れねー。でも・・・、知ってるよ! 女はみんな、自分が 弱いってことを知ってる、自分で自分をダマしてることを心の底ではちゃんと知っ てるよ! だから・・・だからこそ、他人に優しくなれるんだ、と思う・・・」 なぜだろう、ここまで自分を憎む男なのに、こうして見下ろしているとただただ優 しい感情が沸き上がるばかりで・・・らんまの言葉を一番必要としているのは他な らぬらんま自身だったのかも知れない。 「それって・・・、おれ、本当はもしかしたら、『究極の強さ』って『優しさ』の ことなのかも・・・って、あれ? なっ・・・、何言ってんだろ、おれ? ヤッ、 ヤだな〜、何だよ〜、みんな! おれの顔ジッと見つめて!」 らんまは本当に感じるままに言った言葉なので、急に気恥ずかしくなって笑ってご まかしたが、しかしハーブとコロンがただらんまの顔をジッと見つめるばかりだっ たので、なおさら恥ずかしくなって真っ赤な顔でうつむいてしまった。 「・・・いや、乱馬の言う通りだ。全世界を敵に回すのは誰のためだ、将軍? 守 るべき者のない『強さ』は暴力に過ぎぬ。そうは思わぬか、将軍? まさに乱馬の 言う通り、『究極の強さ』とは『優しさ』であるべきだ、と? それを知っている 『女』の方が、知らない『男』よりもずっと『強い』存在なのだ、と?」 「・・・!」 静かに問うハーブの『優しい』まなざしを、パイホーは雷に打たれたように愕然と 目を見開いて見つめていた。それから、彼は腕を目に当ててかすれた声で低くうめ いた。 「なぜ・・・なぜ教えてくれなかった、親父! 『ナポレオン』は俺たちの方だっ たのだと・・・!」 それでパイホーは肩を震わし、声を殺して泣いた。らんまはソッとその頭を自分の 膝に乗せると、その額を優しく撫でてやった、そうせずにはいられなかったから。 「・・・そ、か。犠牲者・・・だったんだな、おめーも」 エピローグ 「済まぬことをしたな。俺には拭いようもない罪だが、せめてもの心尽くしだ、何 かあったら必ず俺に声をかけてくれ。どこにいようと必ず飛んで来てお前を助ける と誓う」 飛竜昇天破のダメージは実は(肉体的な部分では)それほど大きくはない。らんま とコロンの看病もあって、パイホーのそれも次の日にはもうハーブたちとともに帰 れるまでには回復していた。 「いーよいーよ、わかってくれたんなら別に。それにおめーの国は呼ぶには遠すぎ るしな」 あかねの肩を借りながららんまは元気づける様に微笑んで見せた。パイホーは少し 顔を赤らめてうつむいた。 「その・・・、お前に看病されて、俺も『優しさ』がどれほど強いか分かったよう に思う。お・・・、『女』の必要性、も・・・だ」 チラッと見上げるパイホーのまなざしは明らかに恋する男のそれだったりした。ら んまもそれに何となく気づいて、ドギマギしながらあわてて話をそらした。 「そっ、そーだなっ、それはいーことだと思うぜ、おれは! お、おめーも国帰っ たらおれよりもっと優しくて賢いの見つけて幸せになれよっ!」 「・・・何赤くなってんのよ、あんた?」 あかねのいつものごとくマジなのか冗談なのか良く分からない突っ込みを聞いてか どうかは知らないが、ハーブが丁度良いタイミングでらんまの焦りをごまかしてく れた。 「私の借りは返したからな。将軍もああ言ってるのだから、頼るなら私でなく将軍 を頼れよ、乱馬?」 「おっ、おれがいつおめーを頼ったよ?」 まだポッと見つめるパイホーに合いかけた目をあわてて反らすようにハーブをにら んでらんまは言い返した。それでパイホーも諦めたのか、いくらか残念そうにうつ むいた。 「・・・ねえ、乱馬?」 そのような感じでハーブたちが去り、さて、猫飯店の中に戻ろうとしかけた時、不 意にあかねが聞いた。 「ん?」 「昨日からずっと疑問に思ってたんだけど・・・。グズでドジでノロマでマヌケっ て、もしかして・・・あたしのこと?」 実は図星だったりする。それでらんまは、妙なごまかし方をしてしまった。 「なっ、何言ってんだよっ! おめーは不器用なだけだ、全っ然違うだろっ?」 「・・・どこが?」 あかねのこめかみに青筋がピッと浮き出た。らんまは甘えるようにあかねに微笑み かけながら、タラッと冷や汗を流したのだった。 【 TORA 】終わる