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#1740/3141 るーみっく☆わーるど ★タイトル (QKM33822) 94/ 7/ 2 18:43 (124) 小説>らんま「ナルキッソスの鏡」2 altjin ★内容 2.バッカスの鏡 「ナルキッソスの鏡・・・? 何だよ、それ?」 まだ悔し涙をグシッと流しながららんまはコロンに聞き返した。コロンはツンと澄 ましているあかねをチラッと見やりながら答えた。 「うむ・・・。その鏡を見入った者は自分こそこの世で最高の美女じゃと思い込ん でしまう、迷惑千万な鏡じゃ」 「あかねが使たからただのギャグで済んだようなものの、普通の女が使えば一国を 滅ぼしかねない代物ある」 シャンプーがチラッとあかねをにらみながら付け足した。あかねは今初めて気づい たようにシャンプーへ顔を向けた。 「あら、いたの、シャンプー? あたしの美しさの眩さに隠れて見えなかったわ、 あたし」 「せいぜい世の中明るくするよろし」 ライバルこそは相手の最良の理解者であると言うことか、いずれにしてもまったく シャンプーは取り合わなかった。 「早く何とかしてくれよ、ばーさん。おれ、あかねのこと殴りたくねえ」 かすみに慰められてようやく涙を止めたらんまがいつになく気弱な様子で言った。 ウムとうなずいたコロンは懐から道化の鏡を取り出した。 「これはバッカスの鏡じゃ。天道あかねにこれを見せればすぐにナルキッソスの鏡 の魔力は消える。ほれ、婿殿?」 立ち上がろうとしたらんまにコロンはそれを放ってよこした。らんまはオズオズと あかねの元へ寄ってしゃがみ込むと、悲しげにその顔をジッと見つめた。 「おめー、ほんとはおれと大して変わんねーんだぞ? この鏡見て、そのヤな性格 とっとと直してくれよ、な、あかね?」 「・・・イヤよ!」 あかねはプイッと横を向いた。ムッとしたらんまは指をバキバキ鳴らしながら立ち 上がった。 「・・・そーか。やっぱ、腕に物言わせて無理矢理にでも見せるしかねーな」 「あたしは真実を言っただけよ。あんたは真実を見ようとしないから真実に傷つけ られるのよ? どーしてわかんないの?」 キッとにらむあかねを、らんまはバッカスの鏡の蓋をあたかもジャックナイフのよ うにパカッと開きながらにらみ返した。 「・・・わかんねーのはおめーだろ。自惚れんのも大概にしやがれっ!!」 「いやっ!!」 あわてて逃げ出そうとするあかねの頭を無理矢理グリッと回してらんまはバッカス の鏡をグイッと突きつけた。 「見ろ! 見ろよっ、これがおめーのありのままの顔だっ! どこにでもいる普通 の女なんだよっ、おめーはっ!!」 「きゃ〜っっっ!!」 一瞬チラッと見えた自分の顔にあかねは恐怖の声をあげた。 「いや〜っ! いやよっ! これがあたしのはずないっ!! あたしはこんな寝ぼ けた顔じゃないわっ!!」 「くっ・・・あっ!?」 あかねが打ち消すように振り回した手はらんまの頬に当たり、さらに流れてらんま の手の中のバッカスの鏡を弾き跳ばした。それは庭の石に当たって、そして粉々に 割れてしまった。 「なっ、何としたことじゃっ!?」 「あいやあっ!?」 コロンが、シャンプーが突然のことに驚いて庭を見つめ、呆然とらんまが庭を見つ めている隙に、あかねは隠れるようにゴソゴソとナルキッソスの鏡を取り出しての ぞき込んだ。 「・・・ふ。ふふ、ふふふふふ。これこそ本当のあたしよ!」 「!」 その笑いにらんまたちがハッと振り向いた時にはすでに遅く、あかねは鏡を魅入ら れたように見つめながらただ1人で笑っていたのだった。 「・・・」 もう手はなく、あかねの募る高慢さにかすみもなびきも、そして早雲さえもがいつ しかあかねを避けるようになった。ただ、らんまだけは例えば廊下でバッタリ出会 う時などジッとあかねをにらみつけたが、あかねはフンと顔を背けてまったく取り 合わなかった。そのようにして2日が重苦しく過ぎた。 「・・・愛人、愛人?」 道場で1人考え込んでいたらんまは、入り口からすまなそうにコソッと入って来た シャンプーにハッと顔を上げた。 「何だ、シャンプー? 解決策でも見つかったのか?」 「・・・もう諦めるよろし、愛人?」 言いにくそうに何度もらんまの顔を見つめたシャンプーは、やがて横向くようにう つむいてボソッとつぶやいた。 「残る手は、あかねが自分の意志であの鏡を壊すしかないね。あかねには、いえ、 私ですら無理なことあるよ、それは」 「・・・そーか」 らんまはまた腕を組んで考え込んだ。シャンプーはソッとらんまに擦り寄った。 「・・・愛人。もうあかねは諦めて、私と・・・」 「バカッ!!」 らんまの怒鳴り声にシャンプーはビクッと首をすくめた。 「このまま放り出したんじゃ、あいつの一生メチャクチャじゃねーかっ! んなこ と出来ねーよっ!」 「・・・愛人」 シャンプーはすまなげにらんまの横顔をジッと見つめた。 「おれは嫌われたってかまわねえ! とにかく、何とかしてあかねにあの鏡壊させ なきゃ・・・!」 「妬んであたしの顔に傷でもつける相談?」 その声にらんまとシャンプーはハッと振り向いた。あかねが道場の入り口の柱に寄 りかかって2人を見下すように眺めていた。 「無駄よ。美しくありたく願うあんたたちが真に美しいものを壊せるはずないわ」 「愛人」 らんまの腕をポンと叩いて立ち上がったシャンプーは、道場の入り口を出る間際に あかねをキッとにらみつけた。 「最後に泣くのはお前あるぞ、あかね」 「ふ・・・。負け犬の遠吠えって奴ね」 フフンとシャンプーを見送るあかねの背中を悲しげに見つめてから、プイッと顔を 背けたらんまはそのままムスッと聞いた。 「何でわざわざここに来たんだよ? おれ捜してたのか?」 「・・・そーよ!」 振り向いたあかねはニヤリと笑って見せた。 「光は闇の中でこそより美しく輝くもの。あんたは特別にあたしのそばにいていい わ。あたしの美しさに好きなだけ見とれて、あたしの美しさを際だたせる夜となり なさい」 思えば、この2日であかねがまともに交わした会話はこれが最初だった。らんまは 早雲が、かすみが、なびきがあかねを避ける様を思い出しながら、ひっそりと誰も いなくなった部屋であかねがウットリと鏡を眺めていることを思い出しながらどう しても言わずにはいられなかった。 「・・・寂しーんだろ、あかね?」 「!」 あかねはキッとらんまを見下してからすぐにフフンと笑った。 「いきなり何言ってんの? あたしがいなくて寂しく思うのはあんたでしょ? い つも羨ましげにあたしをジッと見つめてたじゃない」 「・・・!」 らんまは横を向いたまま、震える腕をズボンをギュッと握って抑えた。あかねは的 を射たと言わんばかりに勝ち誇って続けた。 「ほら、図星でしょ? だからあたしのそばにいてもいーのよ、乱馬? 心の広い あたしに感謝して・・・!」 らんまは道場の床を蹴るようにダンッと立ち上がると、あかねから顔を背けるよう にうつむいてポケットに手を突っ込んだまま道場を出て行った。あかねはその後ろ 姿をフンとにらみつけた。 「ま、いーわ。負け犬といっしょにいても面白いことなんか何もないもの」 「・・・なあ、あかね?」 道場の入り口のところで、不意にらんまが振り向いて優しく微笑んで見せた。 「おれ・・・、おれさ、今のお前、大っ嫌い!」 「・・・何よ」 らんまはそのまま静かに道場から出て行った。憮然と誰もいなくなった入り口を眺 めていたあかねは、やがてブルッと肩を震わせてキョロキョロ左右を見回した。 「・・・何か寒いわね、ここ」