SIG るーみっくわーるど SIG るーみっくわーるど」は、漫画家 高橋留美子先生(るーみっくわーるど)の作品が好きな仲間が集まっているグループです。 るーみっく好きなメンバー間コミュニケーションのためのチャットや掲示板の提供、るーみっく系イラスト・小説・リンク集の公開などを行っています。 オフ会も不定期に開催されています。1992年6月にPC-VAN上で誕生した歴史あるグループです。
ホーム | About | 新着・お知らせ | フォーラム | ライブラリ | チャット公開ログ | メンバー紹介 | リンク | Copyright
投稿日時:1994/ 7/ 2 18:46 投稿者ID:QKM33822
#1741/3141 るーみっく☆わーるど
★タイトル (QKM33822)  94/ 7/ 2  18:46  (149)
小説>らんま「ナルキッソスの鏡」3 altjin
★内容
  3.ナルキッソスの鏡
「・・・!」
気がつくと、あかねは暗闇の中に1人立っていた。いや、あかねにだけ1すじのス
ポットライトがあたっていた。しばし呆然と闇を眺めていたあかねの心の隙間に、
不意に、しみるような底知れない寒さが襲ってきた。あかねはブルッと震える肩を
抑えようとして、そして愕然と気づいた。
(手が・・・! いえ、手だけじゃなく、足も、体がまったく動かない・・・!)
「・・・かすみおねーちゃんさあ、今度の海どこ行くのよ?」
「今度は奮発して沖縄でも行ってみよーか、ねえ、かすみ?」
「ダメよ、お父さん? 今年はまだ足りないわ」
不意に、向こうの方から早雲やかすみ、なびきたちの楽しげな声が近づいて来た。
(助けてっ、お父さん! 助けてっ、おねーちゃん!)
あかねの助けを求める声は耳に届く音になることはなく、空しく吸い込まれるその
暗闇からフッとかすみたちが現れた。
「あら・・・? こんなところに美しい大理石の像があるわ」
「おや? 本当だ、きれいな女の子だねえ」
「でも、あたしやだな。ちょっと冷たい感じがするもの」
かすみたちは微笑みながら眺めるだけで、すぐに歩み去ってしまった。あかねは動
かない目でその後ろ姿を必死に追いながら沈黙の叫びを叫んだ。
(ダメッ、行かないでっ、みんなっ!! あたしはここにいるわっ!! ・・・動
けないの、助けてっ、振り向いてっ、お願いよぉっ!!)
沈黙と暗闇は無限の転変を一瞬の無に吸い込んでしまいそうで、あかねはゾッと震
えながら最後には声にならない声でただ泣いた。その時、またむこうの方から足音
がゆっくり近づいて来た。
(・・・! もう誰でもいいっ、誰かあたしを助けてっ!!)
スポットライトの光の間際にフッと現れたのはらんまだった。あかねはハッと言葉
を飲み込んでしまった。らんまは悲しげな顔であかねの顔をジッと見つめていた。
「・・・」
不意に、舞うような優雅さでらんまがスッと手を上げた。弥勒像のそれの如くに優
美に動くその指はやがてあかねの冷え切った唇にソッと触れた。その刹那、微かな
舞い落ちる落ち葉の大地に触れる音よりも幽かな『ぬくもり』が、懐かしい思い出
と手を携えてあかねの中にドッと舞い飛び込んで来た。
「・・・寂しーんだな、おめー。こんなとこに独りぼっちで」
らんまの指先の微かな鼓動に合わせるように、あかねの心臓は動き出した。あかね
を隅々まで満たしていた『ぬくもり』は、ついには暖かい涙となってあかねの目か
ら溢れ出していた。
(・・・・・・・・・乱馬!)

「・・・そーか、やっぱり他に方法はねーか」
翌日曜の朝にはコロンがシャンプーを連れて再びやって来た。コロンの言葉にらん
まはフッとため息をついて考え込んだ。
「さよう、天道あかね自らがそれを出来ぬ以上、誰か他の者があの鏡を奪い取って
割るしかない。・・・すでにその覚悟は出来とったようじゃの、婿殿?」
「・・・一生恨まれる・・・よな、やっぱり?」
うつむいて悲しげにつぶやくらんまに、コロンは無言でうなずいて見せただけだっ
た。シャンプーが慰めるようにらんまの手をソッと握った。
「・・・私、精一杯乱馬のために尽くすね。いっしょに女傑族の村へ来れば、あか
ねと顔合わせて気まずい思いすることもないある」
「・・・ああ、そーだな」
らんまはシャンプーから顔をそらすようにうつむきながら深いため息をついた。
「・・・来たわ。女王様のお出ましよ」
柱によりかかってムスッとした顔で眺めていたなびきが、縁側の奥をチラッと見て
からいまいましげにうめいた。
「あたしは上にいるわ。何か、もーうんざり」
そのままなびきは自分の部屋へと戻って行った。少しためらっていたかすみも、や
がて少し気まずそうに微笑みながら言い訳がましく言って茶の間を出て行った。
「も、もうそろそろお昼の準備しなきゃ!」
「・・・て、天道くん? ど、どーだい、久しぶりに道場で手合わせなんか?」
迷うようにムズムズしていた早雲も、玄馬の言葉にワハハとごまかすように笑いな
がらそそくさとこの場を去って行った。
「そ、そーだねえ! 良いねえ、早乙女くん!」
ただ、茶の間を去り際、ボッと見上げるらんまに早雲はふと振り向いて、何もかも
済まなかった、と言うようにペコッと小さくうなずいて見せたのだった。

「なびきおねーちゃん・・・」
廊下ですれ違い様、あかねはオズオズとなびきの横顔を見つめた。なびきはプイッ
と顔を背けながらスッとあかねの横をすり抜けて行った。
「・・・せっかく見つけた相手フイにして、バカじゃないの、あんた? あんたみ
たいな男女もらってくれる人なんてもう絶対見つからないわよ」
なびきが吐き捨てるような言い残した言葉に、あかねは返す言葉もなく寂しげにそ
の背中を見つめるばかりだった。
「・・・おねーちゃん」

「・・・みんな薄情あるね。私も何かあかねが可哀想になって来たある」
あかねが来る、と言うだけでガランとしてしまった茶の間に、さすがのシャンプー
もムッとした様子だった。しかし、らんまはそれには力なく微笑んで見せるばかり
だった。
「・・・あかねのこと嫌いになりたくねーんだよ、みんな。信頼なんてーのは思っ
てるよりはかないから、今ケンカしたら壊れちまって、2度と今までのよーに幸せ
な気持ちであかねの側にいてやれねーから」
「相手の幸せを思えばこそ離れねばならぬ時もある、人生とはどれほど長く生きて
もやはり難しいものじゃのう・・・」
コロンがホ〜ッとため息混じりにつぶやいた。らんまは慰めるようにヘヘッと笑っ
て見せた。
「ばーさんでもそーなんだな、何か安心したぜ、おれ。なに、あかねにゃおじさん
も、かすみねーちゃんも、なびき・・・ねーちゃんもいるから、みんな心からあか
ねのこと心配してくれるいー人たちだから、だからおれも心残りなんてねーって、
みんなにあかねのことは任せて、おれはおれで好きにやるさっ」
慰めるように見つめるコロンとシャンプーに、らんまは笑ってごまかすようにそう
言った。その時、シャンプーがハッと顔を上げた。
「・・・乱馬」
縁側に立って悲しげにあかねがらんまを見下ろしてた。

「・・・今度は何の御自慢だ、え、お美しい女王様?」
しばし愛しむようにあかねをジッと見つめていたらんまは、やがてヘッと笑うと挑
発するように言ってユラ〜ッと立ち上がった。
「・・・もう、・・・いーわ、乱馬」
しばし頬を赤くしてうつむいていたあかねは、らんまの足元をジッと見つめながら
そう言った。それから、いぶかしげに見守るらんまの前で身を固くしたまま、手を
まるで強い抵抗に抗うようにゆっくりポケットへと入れた。
「しっ、婿殿!」
何か言いかけたらんまをコロンがささやくように止めた。あかねの動きをジッと見
つめるコロンに、ついらんまもシャンプーも同じくあかねを見守った。
「・・・!」
ポケットの中の手が鏡の冷たい感触に触れる、たちまち沸き上がる衝動に抗うよう
にあかねはもう片方の手を、爪が食い込むほどにギュッと固く握りしめた。鏡はス
ローモーションよりも遅くゆっくりと引き出され、あかねは震える手でそれを顔の
前まで持ち上げると、ゴクッと唾を飲み込んでからその蓋をパカッと開けた。
「・・・」
不安と期待と闇と光の交錯する一瞬、時間はもはや誰にも測れなかった。一瞬トロ
ンとするあかねの目にらんまたちはハッと身を固くした。と、その動きがあたかも
無心に伝わったかのように、あかねの目は鏡の奥の暗黒に愕然と目を見開き、そし
て愛する者の死を目撃してしまった者のようにギュッと閉じられた。
「・・・いらないっ!! 他人を、自分を傷つける美しさなんてっ!!」
たちまちあかねは身を翻すと振り上げた手を無限の果てへと思いのすべてを込めて
振り下ろした。鏡は惜しむようにひくつくあかねの指に少し引っ掛かってから、妙
な回り方で飛んで、そして庭の石に当たって砕けた。

  エピローグ
「・・・でかした、天道あかねっ!」
驚愕の一瞬はコロンの賛嘆するような声で日常へと今一度翻った。シャンプーも腕
を組んで妙に難しい顔でウンウンうなずき、らんまも今はホッと座り込んで頼もし
げに微笑みながらあかねを見上げた。
「・・・今までごめんなさい、みんな」
荒い息を静めるためだったのか、それともみんなに合わせる顔がなかったためだっ
たのか、あかねはちょっと間を置いてからようやく気恥ずかしげに振り向いた。
「あたし、どんな償いでもするわ。だから何でも言って!」
「・・・もういーよ。おめーがおめーなら、おれは」
らんまはわざと呆れたように手をシッシと振っただけだったが、代わりにコロンが
ウムとうなずいて言った。
「では、2枚の鏡を弁償してもらおうかのう、天道あかね?」
「え゛・・・?」
あかねは度肝を抜かれてコロンを見つめるばかりだった。
「何しろ我が家の家宝じゃったからのう・・・。そうさのう、本当なら数億は下ら
ぬ物なのじゃが・・・まあ、ここはおぬしが1ヶ月猫飯店で働いてもらうことで良
しとせねばなるまい?」
「・・・え゛?」
あかねはもはや目を点にして立ち尽くすばかりだった。
「・・・店つぶれるぞ、ばーさん?」
今度は心から呆れたように言うらんまにコロンはパチッとウインクして見せた。
「いや、もちろん力仕事のみじゃ」
「あいやあ。なら私少しヒマ出来るあるな! 乱馬とデート出来るね!」
大歓喜で跳ね回るシャンプーにあかねはタラッと汗を流してうめくばかりだった。
「え゛?」
「・・・おれも少しぐれー手伝ってやるよ、あかね」
らんまがウンザリとため息をつくように言った。今年の夏の猫飯店は看板娘を3人
も抱えて、大幅な客の入りが予想されたりするのであった。

【 ナルキッソスの鏡 】終わる
前の投稿:#1740 小説>らんま「ナルキッソスの鏡」2 altjin
この投稿:#1741 小説>らんま「ナルキッソスの鏡」3 altjin
次の投稿:#1745 感想>原作めぞん一刻67(7巻-4)〜72(7-9)話  by阿修羅

フォーラム過去ログ一覧へ戻る

Copyright © 1993-2005. SIG るーみっくわーるど
このページにある投稿文章は、各投稿者に著作権があります。
このサイトで公開されている全ての文章・画像などを許可なく転載することを禁じます。